時評
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 働く人の給与を、電子情報でやりとりするお金「デジタルマネー」を使って支払う方式の実施に向け、厚生労働省が制度の骨子案をまとめた。[br][br] デジタルマネーで給与を支払う方式は、政府が成長戦略の一環に掲げ、2021年度の早い時期の制度化を目指している。実現に向けて今後、制度設計の具体化や、慎重意見が多い労働側などとさらに議論を重ねる。[br][br] 企業が金融機関の預金口座や現金で支払っている給与を「○○ペイ」などのスマートフォンの決済アプリの口座に入金することになれば、利用者は銀行から現金を引き出さなくても、買い物ができる。[br][br] 経済産業省の資料によると、民間最終消費支出に占めるクレジットカードなどによる支払いであるキャッシュレス決済比率は、19年は26・8%で、18年以降、年間で3%弱の伸び率となっている。中でも、スマートフォンなどのQRコード決済は18年の0・05%の伸び率から19年は0・31%の伸び率と顕著だ。[br][br] 政府は25年6月までにキャッシュレス比率を40%に、将来的には80%へと引き上げる目標を立てている。給与のデジタル払い実施もこうした流れに沿ったものだ。また、キャッシュレス決済の利用者が増加傾向にあることや、金融機関での口座開設が困難な外国人労働者の需要が見込まれることが背景の一つに挙げられる。[br][br] だが、給与のデジタル払いを実施するためには課題が多い。とりわけ資金の安全・安心をどのように確保していくのか。その仕組み作りが制度実施の前提となるだろう。労働政策審議会での議論でも、個人情報の取り扱いや資金の安全面での懸念が多く出された。中でもQRコードなどによるキャッシュレス決済を行っている「資金移動業者」への信頼性が問題視された。[br][br] このため厚労省の制度骨子案は、資金移動業者について(1)債務の履行が困難になったとき、労働者への債務を速やかに保証する仕組みを設けている(2)不正取引などで損失が生じたときに補償する(3)ATMなどにより1円単位で引き出せる(4)業務や財務状況を適時に厚労相に報告できる体制(5)業務を確実に実行する技術力、信用力がある―などの条件を設けるとした。[br][br] 給与は働く人の生活の基盤をつくる資金だ。労働者保護の観点から通貨で払うことが労働基準法で定められている。生活上の決済手段の多様化に応じ給与のデジタル払いを実施する前提として、安心・安全の仕組み作りは欠かせない。