時評(3月12日)

「自由貿易の番人」の座から落ちかけていた世界貿易機関(WTO)が新しい事務局長を迎え、ようやく動きだした。トップである事務局長のポストは半年も空席だったが、ナイジェリアの元財務相オコンジョイウェアラ氏が難航の末に就任にこぎ着けた。初の女性事.....
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 「自由貿易の番人」の座から落ちかけていた世界貿易機関(WTO)が新しい事務局長を迎え、ようやく動きだした。トップである事務局長のポストは半年も空席だったが、ナイジェリアの元財務相オコンジョイウェアラ氏が難航の末に就任にこぎ着けた。初の女性事務局長で、アフリカ出身も初めてだ。[br] WTOは多くの難題を抱えており、中でも急務なのが貿易を巡る紛争処理機能の回復だ。機能不全が1年以上続き、新事務局長は早急に立て直しに着手する必要がある。日本もWTOの新体制に協力し、本来の姿に戻るよう努力すべきだ。[br] WTOのアゼベド前事務局長は2020年5月、突然辞意を表明。任期を1年残して同年8月末に辞任した。WTOと米トランプ前政権との対立による混乱に嫌気が差したようだ。[br] 事務局長選出では多くの国がオコンジョイウェアラ氏を支持したが、中国が影響力を強めるアフリカからの選出に米国が強く反対し、宙に浮いてしまった。だが国際協調を重視するバイデン政権は方針を転換、新事務局長誕生となった。[br] オコンジョイウェアラ氏は世界銀行のナンバー2の専務理事を務め、ナイジェリアでは財務相や外相を歴任した。国際的な実務経験や実行力が高く評価されている。[br] WTOの重要な仕事は加盟国間で生じた貿易紛争の処理である。司法機能といわれるが、紛争処理では「最終審」にあたる上級委員会の委員(定員7人)が現在はゼロ。米国が任期を終えた委員の補充に反対したためで、日本と韓国との通商紛争などがたなざらしになっている。[br] 米国は上級委の判断がWTOの権限を逸脱していると強調。さらに大きな不満は中国への対応である。中国は加入当時の「発展途上国」のままの扱いで、関税や補助金で「優遇されているのはおかしい」というのが米側の言い分だ。[br] 新事務局長はまず、紛争処理機能を回復するため、米政権との信頼関係の構築が必要となる。米中対立が続いており、両国の同意を得ながらの運営は非常に難しいとみられ、早々に手腕が問われることになろう。[br] 懸案はまだある。1995年設立のWTOは電子商取引などに対応できていないと批判されており、ルールづくりを急ぐ必要がある。さらに新型コロナウイルス問題も深刻で、コロナワクチンや医療品の輸出規制など難題に立ち向かわなければならない。各国はWTO復活に向けて全面的に協力してほしい。