新型コロナウイルス禍で昨年は中止された自民党大会が2年ぶりに開かれ、菅義偉首相は総裁演説でコロナ克服と秋までに行われる衆院選での勝利を目指して先頭に立って戦う決意を表明した。[br][br] 首相は「伝統を守り、多様性と創造性を大切にしながら、日本を次の世代に引き継ぐことができるのは自民党だ」と胸を張った。だが、自民党が責任政党としての信頼を国民から十分に集めているとは到底言い難いのが現状だろう。[br][br] 安倍晋三前政権から相次いでいる自民党所属議員による選挙買収事件や鶏卵汚職事件、緊急事態宣言下での銀座クラブ通いや、菅首相の長男が関わる総務省接待問題などの不祥事への反省について、菅首相は演説で言及しなかった。首相のこの姿勢は、河井克行元法相の公選法違反事件を「他山の石」と人ごとのように言ってのけた二階俊博幹事長の責任放棄の対応に通じるものがある。[br][br] 離党や議員辞職だけで幕引きを図り、事実関係の調査と再発防止に取り組む熱意が感じられない菅、二階両氏の態度では、国民の政治不信はさらに高まるだろう。自民党は信頼回復のため、政権党としての説明責任を果たす必要がある。[br][br] 急ぐべきは、河井元法相・案里前参院議員夫妻による買収事件の真相解明だ。元法相は裁判で無罪主張を一転して撤回し、2019年の参院選で案里氏を当選させるための買収を認め、衆院に議員辞職願を提出した。[br][br] 自民党本部は案里氏の陣営に1億5千万円もの活動費を振り込んだ。このうち1億2千万円は税金が原資の政党交付金だ。税金が選挙買収に使われたなら事は重大である。[br][br] 菅首相は検察当局に押収された関係書類が返還されてから党の監査を行うとの姿勢だが、怠慢のそしりは免れまい。自民党は直ちに調査し、資金の流れと使途を確定して公表すべきだ。[br][br] 汚職事件や香典提供問題など「政治とカネ」にまつわる疑惑に関わった政治家本人の説明責任も一向に果たされておらず、自民党も放置している事態は極めて遺憾だ。[br][br] 共同通信社の世論調査では、総務省接待問題を巡る菅首相の説明が「十分ではない」との回答が73・9%に上り、「十分だ」は15・1%にとどまった。[br][br] 菅首相には総裁として党の規律を高める責任がある。自ら説明責任を尽くし率先垂範で襟を正すべきだ。自浄能力を発揮できず、信頼を失った政権が長続きしないのは歴史の教訓だ。