新型コロナウイルス拡大の中、米国でアジア系住民に対する憎悪犯罪(ヘイトクライム)が急増し、深刻な社会問題になっている。駅や路上など公共の場での暴力や嫌がらせの他、店舗などの襲撃も目立つ。背景には、自由で民主主義を掲げる米国の奥底に根を張る人種差別感情があるのは否めない。[br][br] この種の犯罪は撲滅されるべきだが、少なくとも歯止めをかける必要がある。バイデン政権や議会が有効な対策を打ち出し、憎悪犯罪抑止の強い姿勢を示すよう要求したい。[br][br] アジア系に対する憎悪犯罪が浮き彫りになったのは3月に南部アトランタで発生した連続銃撃事件だ。アジア系女性6人が犠牲になった。続いて、ネットで拡散し、全米に衝撃を与えたのがニューヨーク中心部で白昼起きた暴行事件だ。[br][br] 歩いていたフィリピン系女性が前から来た男に蹴り倒された上、頭部を複数回蹴られ、大けがをした。男は「ここはおまえの居場所ではない」と差別的な言葉を吐いた。[br][br] 現場前のビルの中では警備員らが暴行を目撃していたが、助けるどころか、関わりを避けるようにドアを閉めた。アジア系とウイルス感染を一方的に関連付けたとも見られている。[br][br] この事件をニューヨーク市長は「恐怖を感じさせる」と非難したが、日常的に「元の国に帰れ」といった言葉を浴びせられるアジア系の懸念は高まる一方だ。[br][br] カリフォルニア州立大によると、米主要16都市で昨年起きた憎悪犯罪は前年比2・5倍の122件。ニューヨーク市では、一昨年の3件から昨年は28件に増え、今年はすでに35件に上っている。しかも気になるのはアジア系に対する憎悪犯罪は欧州などでも増えており、世界的な傾向になりつつあることだ。[br][br] なぜ急増しているのか。大きな理由としてトランプ前米大統領の言動を指摘する声が多い。同氏はコロナ対策の失敗を取り繕うため「中国ウイルス」と呼んで、感染拡大に対する中国の責任を繰り返し追及した。[br][br] これがウイルスまん延による自粛生活や失職などで苦しむ人々の不満と結び付き、そのはけ口としてアジア系への憎悪犯罪につながったようだ。[br][br] バイデン大統領は「沈黙は共犯」として差別的な暴力を非難、被害申告を容易にするなどの対策を打ち出しているが、まだ十分とは言えない。政府や議会がアジア系住民と連帯し、憎悪犯罪防止の対策法を早急に成立させるよう求めたい。