4月に開催された気候変動サミットで、菅義偉首相は温室効果ガスの2030年度の削減目標について、13年度と比べて46%の削減を目指すと表明した。 政府は夏ごろまでに新しいエネルギー基本計画をまとめる予定だが、「脱炭素」の決め手となる太陽光発電などの再生可能エネルギーは、候補地選定に時間がかかるなど、簡単には積み上げられない難しさがある。[br][br] そうした中で、燃焼する際に二酸化炭素(CO2)を出さない「夢のエネルギー」と言われている水素ビジネスが動きだしている。[br][br] 水素を燃料として利用する場合には、「造る」「運ぶ」「使う」の各段階をつなぐ効率的なサプライチェーン(供給網)を確立しなければならず、実用化に向けて課題が山積している。[br][br] 水素は製鉄所などから副産物として出るが、発電などで大量の水素が必要になる場合、これだけでは追いつかない。簡単に造るには水を電気分解する方法があるが、多くの電気代がかかるため採算をとるのが難しい。[br][br] そこで進められているのが海外から輸入する方法で、川崎重工業がオーストラリアの褐炭から製造した水素を液化して日本に運ぶ計画を進めている。オーストラリア側は環境対策上使いにくくなった褐炭を液体水素の形で利用できるため、この計画の推進に前向きだ。[br][br] 課題はマイナス253度の超低温の液化水素を大量に運ばなければならない点で、同社は建造したパイロット船を使って今年中に液化水素を日本まで運ぶテストを行う。これがうまくいけば、20年代半ばまでに16万立方メートルの液化水素を一度に運べる大型運搬船を世界に先駆けて建造する。[br][br] 使う部門では、CO2排出の大きな割合を占める発電所で、水素を使う試みが進もうとしている。[br][br] 三菱重工業グループの三菱パワーでは、天然ガスを使う発電所に水素を混ぜて発電する技術開発を進めている。18年には水素30%を天然ガスと混焼させることに成功、既存のガスタービン発電設備を改造して使える利点がある。三菱パワーはこの技術を土台に、25年までにCO2が全く出ない水素だけの専焼発電技術を完成させたい計画だ。[br][br] しかし、発電コストがキロワット時当たり20円以下でないと、ほかのエネルギーと比較して競争力が落ちる。水素エネルギーが普及するためには、サプライチェーンも含めてあらゆる段階でコストを下げる努力が求められる。