菅義偉首相がバイデン米大統領と対面による初の首脳会談をホワイトハウスで行った。「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記し、中台の「両岸問題の平和的解決」を促す共同声明を発表した。[br][br] 日米首脳の共同文書で台湾に言及したのは、冷戦期の1969年の佐藤栄作首相とニクソン大統領の会談以来で、台頭する中国の覇権主義的な動きを抑止する狙いを鮮明にした。大国化を進める中国への対応が焦点となる中、日米同盟の深化など安全保障から経済、技術、気候変動まで幅広い分野での協力を確認した意義は大きい。[br][br] 中国は「干渉を許さない」と強く反発しており、対日姿勢を硬化させる可能性はあるが、台湾有事が現実になれば最も深刻な影響を受けるのは日本だ。偶発的な軍事衝突を避けるため、米中双方に自制を求めるとともに、米中対立の緩和を促す戦略的外交を構築する必要がある。[br][br] バイデン氏は中国を「唯一の競争相手」と呼び、日本を自由、民主、人権などの基本的価値を共有するアジア最大のパートナーと期待している。[br][br] だが、日本は歴史的にも地理的にも米国とは異なる対中関係を築いてきた。近年は経済的結び付きも深まり、中国は最大の貿易相手国。米国と完全に同じ立場をとるわけにはいかない。菅首相は米国の抑止力を生かしながら、対話による日中関係の安定と発展を目指す主体的な外交方針を早急に固めるべきだ。[br][br] 共同声明は香港や新疆ウイグル自治区での人権状況に「深刻な懸念」を表明した。日本は米欧諸国の対中制裁に歩調を合わせていないが、ミャンマーなども含め国際的な人権問題への関与の在り方を議論すべきだ。[br][br] 両首脳は経済分野でも半導体のサプライチェーン(供給網)構築での協力を確認した。半導体生産能力で世界の首位に立つ台湾を念頭に置いたものだ。[br][br] 大統領は日米安全保障条約第5条の沖縄・尖閣諸島への適用や、北朝鮮による日本人拉致問題の即時解決に言及した。菅首相は日本の防衛力強化と沖縄の米軍普天間飛行場の移設推進を約束した。米側の負担要求にどう対応するのか。首相の覚悟が問われている。[br][br] 共同声明は中国との「率直な対話の重要性」と、気候変動など共通の利益がある分野での「協働の必要性」も明記した。中国に国際社会で責任ある役割を果たすよう働きかけていくことが肝要だ。日本は中国との独自の関係を生かし、対話促進の先導役を担うべきだ。