本紙文化面で2015年1月~17年5月に連載した「続きたおうう人物伝」が書籍化された。幕末から現代にかけて各分野で活躍した計132人の伝記を通し、北奥羽地方の近現代の歩みをたどることができる一冊になっている。強いリーダーシップを発揮した政治家に、アートや文芸の分野で高く評価された人物、企業や学校の創立者…。こうした先人の生きざまを、自らの歩みを顧み、未来を見据えるヒントにしたい。[br][br] 連載では、ノースアジア大(秋田市)法学部の渡部髙明准教授らが編集委員として執筆を担当。八戸市出身の芥川賞作家三浦哲郎さん、黒澤映画を支えた同市出身の脚本家小國英雄さん、「11ぴきのねこ」を生んだ三戸町出身の漫画家馬場のぼるさん、同町出身で青森県初の横綱となった鏡里、「世界の福田」と称された二戸市出身のグラフィックデザイナー福田繁雄さんら、1995年の前作『きたおぅう人物伝』刊行以降に死去した人物を中心に取り上げた。[br][br] 書籍化に当たっては、開発事業に挑んだ幕末の八戸藩士蛇口伴蔵や盛岡藩士新渡戸傳、「実戦日本一」といわれた久慈市出身の柔道家三船久蔵、モダンダンス界の先駆けとなった野辺地町出身の江口隆哉、三沢市ゆかりの劇作家で歌人の寺山修司といった、前作に掲載された人物も、加筆・修正の上、多くを再収録した。[br][br] 国内外で名の通った著名人もいれば、地域に根差して活動を続けた人物もいる。地域課題の解決のためイノベーションを起こしたり、「私」よりも公共のために尽くしたり、好きな道を突き進んで高い評価を得たりと、活躍エリアや分野はさまざまだ。[br][br] 現代の北奥羽地方を見渡したとき、これだけの個性を放つ人物がどれだけいるだろうか。政治家にしても実業家にしても、昔に比べると組織が重視され、強い個性は表に出しにくくなった。文化活動でも関係者の高齢化が進み、往時のようなエネルギーが失われつつある分野が少なくない。コロナ禍もあり、現代社会全体に閉塞(へいそく)感がある。[br][br] だが、先人も必ずしも環境に恵まれたり、順風満帆だったりしたのではない。むしろ、閉塞感の中でこれを打ち破ろうと奮闘したところに、先人の先人たるゆえんがある。古来、偉人の伝記は後世の人々の生きる道しるべとなってきた。郷土の礎を築いた群像も、悩んだときに光をともし、行動の活力になるような理念や哲学を、生き方を通じて教えてくれるだろう。