バイデン米大統領の施政方針演説は巨額な財政出動による「大きな政府」への転換を鮮明にした。1930年代の大恐慌時の「ニューディール政策」を思い起こさせるものだ。背景にあるのは「21世紀の対中競争に勝ち抜く」という超大国の地位をかけた危機意識だろう。[br][br] 今後、対中関係で同盟国に相応の役割を求めてくる可能性もあり、日本はバイデン政権の対中政策をしっかりと見極めて、対応しなければならない。[br][br] バイデン氏は政権発足100日という節目の演説でまず、新型コロナウイルス拡大をワクチン接種の推進で抑え込みつつあると成果を誇示。コロナ禍で疲弊した経済と人々の暮らしを復活させるため3本柱の「再生政策」を改めて強調、野党共和党に協力を訴えた。[br][br] この政策はコロナ支援の「追加救済計画」、インフラ投資の「雇用計画」、教育・子育て支援の「家族計画」で、うち「追加救済計画」は法が成立、合わせて約650兆円もの財政出動となる。[br][br] だが、この計画は「現代の米国経済で試されたことのない実験」「リスクの伴う賭け」(米紙)だ。最大の懸念は大規模な財政出動による経済の過熱だ。[br][br] 高インフレを招き、また計画の財源の一部は富裕層や企業への増税に依存していることから、企業の新規投資の抑制や、国外流出を生み、同氏が重視する「中間層」への打撃になる恐れがある。[br][br] 世論調査(CNN)によると、7割を超える国民が演説を好意的に受け止めたが、共和党は「分断を深めるもの」と強く反発、社会の融和はすぐには達成できそうにない。[br][br] 同氏が野心的な財政出動に出たのは「唯一の競合国」中国に対する対抗心と危機感を反映するものだ。「理念」を重視する同氏は中国との対立を「専制主義体制と民主主義体制の闘い」と位置付けているが、ハイテク技術を巡る覇権争いには負けられないと考えているようだ。[br][br] 「家族計画」を説明した中で「将来の競争に勝つための教育への投資」を提唱し、大学の無償教育にも踏み込んだのはその決意の表れだろう。[br][br] 同氏は同盟国と協調して中国と対峙(たいじ)していく姿勢を示した。しかし、日本が中国「包囲網」に安易に乗ることは禁物だ。米国とでは、地理、経済、文化などあらゆる面で中国との距離感が違うからだ。日本は米政権の対中政策の内容を吟味し、米中対立のはざまでしたたかな外交力を発揮しなければならない。