コロナ禍支援で各国の財政が悪化する中、国際的な企業課税強化が実現に動きだした。バイデン米政権が国際的な法人税改革案を提示、経済協力開発機構(OECD)も呼応して、法人税の統一ルールをまとめる方針を表明したからだ。[br][br] 改革案は2点で、世界共通の最低税率を設定するのが一つ。企業競争力を維持するための各国間の法人税引き下げ競争に、歯止めをかけるのが狙いだ。もう一つは高収益を上げる巨大ITなど多国籍企業に対する新税で、米国は対象を約100社に絞る構想を示した。[br][br] 高収益の巨大企業が増える一方で、低税率の国へ拠点を移す租税回避行動や、デジタル化による取引把握の困難さで、各国の税収基盤の縮小が深刻化している。追い打ちをかけたのがコロナ禍対応による膨大な政府債務だ。2021年の世界の政府債務は国内総生産(GDP)合計の水準にまで急膨張する。[br][br] OECDを中心に約140カ国が7月に統一ルールの合意を目指すが、財政健全化のために各国は協調すべき時だ。[br][br] OECDは国際課税のルール作りを検討していたが、米国優先のトランプ政権時に停滞。経済立て直しを急ぐバイデン政権が改革の背中を押した形だ。[br][br] 米国は250兆円のインフラ投資計画の財源として、連邦法人税を21%から28%とする275兆円の増税案を発表。その実現には、世界規模で最低税率を導入、税率引き下げ競争を断つことが急務との事情がある。[br][br] 税率が19%と主要国で最低の英国も、23年に25%に引き上げる。米国案はその下支えの効果がある。23%(地方税含む実効税率は29%)まで引き下げた日本にとっても渡りに船だ。政府債務がGDP比2倍超と世界で突出する現状でも、支持率に響く増税に踏み出せない中、米国提案は税収安定化につながる。[br][br] 最低税率は20%台が見込まれるが、高めだと税収基盤が安定化する半面、低率を売りに投資を呼び込んでいる国には打撃となる。相互に歩み寄れる合意ラインを目指して努力すべきだ。[br][br] 一方の新税案は元々、IT企業に対するデジタル取引課税構想だった。しかし今回、米国が国内の巨大ITに配慮して、ITに限らず高収益の多国籍企業など約100社を選んで売上高に課す新税を提案。今後の具体的な企業選定を経て新税が実現するよう期待したい。[br][br] 改革が実現すれば、30年間続いた法人税率引き下げ競争の大きな転換点となるのは間違いない。