天鐘(4月30日)

「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」。無神経な言葉は、飢えと重税に苦しむフランス国民の感情を逆なで、革命の火種となる―。マリー・アントワネットの生涯は、こんな文脈で語られることも多い▼発言を裏付ける典拠はない。彼女は華やかさの象徴.....
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 「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」。無神経な言葉は、飢えと重税に苦しむフランス国民の感情を逆なで、革命の火種となる―。マリー・アントワネットの生涯は、こんな文脈で語られることも多い▼発言を裏付ける典拠はない。彼女は華やかさの象徴。庶民の不満のはけ口となり、中傷を伴う言説も一人歩きした。時に浪費家の悪女、時に悲劇のヒロイン。これだけ評価が分かれる人物も珍しい▼革命に散った王妃は、ある花を愛したという。ジャガイモである。ゴツゴツした地下茎に反して、白や薄紫の小さな花は清らか。その髪飾りは社交界で評判に。貴族がこぞって観賞用に栽培を始める▼実は夫・ルイ16世の画策だった。凶作に備えた救荒食物としてジャガイモに着目。当時は食用に抵抗があり、あの手この手で宣伝に努めた。後に「庶民のパン」として広く普及したのは、皮肉に他ならない▼『世界史を大きく動かした植物』から引いた。人と同じく、花にも歴史がある。悠久の時代、桜は農作業の始まりを告げる神聖な存在だった。零(こぼ)れ桜に捧げる豊作の祈りは、花見の原点。今も続く日本の文化である▼著者で植物学者の稲垣栄洋さんは、「みちくさ研究家」を自称する。野に目をやれば、主役は桜から果樹の花へ。新緑が増し、草花も鮮やかだ。制約がある大型連休。天候もすっきりしないが、気晴らしに散策でも。