国民の最大関心事である新型コロナウイルス感染症対策を巡る菅政権の説明には失望させられる。根拠が疑わしい強弁は国民の安心には程遠いと言わざるを得ない。[br][br] 10日から本格化した高齢者へのワクチン接種について、菅義偉首相は「1日100万回」との目標を掲げた。しかし加藤勝信官房長官は、首相が高齢者への接種を終えると表明した「7月末」から逆算した1日当たりの数字であることを認めた上、あくまで「国として」の目標で、自治体によって接種の進捗(しんちょく)状況に差が出ることはやむを得ないとの認識も示した。[br][br] 実際に東京都によれば、都内自治体の3分の1は高齢者接種完了が7月末までに「間に合いそうにない」としているとされ、国の目標が極めて心もとないことが明らかになっている。[br][br] 国会では10日、衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、野党は11日までで解除される予定だった緊急事態宣言が延長された責任などをただした。首相は延長前までに「人流は減った」と抗弁。しかし、人流を減らすことは「手段」であって感染者減少という「目的」は果たせなかったとの野党の追及に対し、有効な反論はなかった。[br][br] 東京五輪開催についての答弁も誠実さを欠いた。再検討を提案する野党議員に、首相は国際オリンピック委員会(IOC)が開催を決めているとした上で「選手が安心して参加できるようにし、国民の命と健康を守る。これが開催に当たっての基本的な考え方だ」という「定型」の答弁を繰り返すだけだった。[br][br] 野党が「五輪と感染症対策の両立は不可能」「ステージ4(爆発的感染拡大)でも開催するのか」などと重ねて問い詰めても、首相は「安心、安全な大会の実現に全力を尽くす」として再考の余地はないと突っぱねるような姿勢を崩さなかった。[br][br] 4月上旬の共同通信電話世論調査では五輪の「再延期」「中止」を求める回答が計7割超に上った。3回目の緊急事態宣言発令中の今は「五輪は感染状況次第」が国民の常識だろう。それでも首相が開催を強行するなら、今秋までにある衆院選挙を有利に戦うためといった政治的意図を疑われないよう説明を尽くすべきではないか。空虚な答弁は政治不信を募らせる。[br][br] 全国知事会が「全国での緊急事態宣言も視野に入りうる」との認識を示すような危機的状況では、コロナ制圧には政権に対する国民の信頼、協力が欠かせないはずだ。人々の胸に響く正確で誠実な言動が求められる。