時評(3月2日)

政府は少年法改正案を国会に提出した。事件を起こした18、19歳を「特定少年」として厳罰化を図ることを目的としている。健全育成の理念を基本とする少年法制下で少年の非行は目立って減少しているが、改正法案はその理念を覆しかねない問題点を含んでおり.....
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 政府は少年法改正案を国会に提出した。事件を起こした18、19歳を「特定少年」として厳罰化を図ることを目的としている。健全育成の理念を基本とする少年法制下で少年の非行は目立って減少しているが、改正法案はその理念を覆しかねない問題点を含んでおり、国会では慎重な審議が必要だ。[br] 民法の成人年齢が2022年4月に20歳から18歳に引き下げられる。18歳で「大人」だから、事件を起こせば大人扱いにすべきだという発想である。[br] 17年、法制審議会の部会で少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げるかどうか、の議論が始まった。賛成、反対の議論が対立、結論が出ず、折衷案としてまとまったのが今回の改正案だ。[br] 20歳未満の全事件はこれまで通りにまず家庭裁判所に送る。その上で18、19歳を「特定少年」と定め、重大犯罪では原則、家裁から地検に送致(逆送)し、検察が調べる。検察は大人の犯罪と同様に起訴すべきものは起訴する。これまで原則逆送は殺人や傷害致死といった「故意の犯罪行為で人を死なせた罪」に限られていたが、強盗や強制性交、現住建造物等放火などにも拡大される。[br] 現行の少年法では、少年事件を送られた家裁は調査官らが少年の成育史、家庭環境、非行時の精神状況、非行の原因と背景などを詳しく調査する。その後、審判を経て立ち直らせるため一人一人の状況に合った処遇が決められ、少年院などで再教育される。少年法1条で「少年の健全な育成を期し」とした措置である。[br] 改正法案の問題点の一つは、逆送された「特定少年」は処遇の対象外になることだ。さらに起訴されれば氏名や顔写真など本人を特定する報道も解禁される。実名がインターネットなどで拡散され、社会復帰がさらに困難になる恐れがある。[br] 犯罪白書によると、家裁の少年事件受理人数は1966年の109万人余をピークに2019年の5万人余まで激減している。当時とは少年の数が減っているにしてもそれを上回る減り方だ。[br] 多くの少年事件は家庭環境や成育歴に問題があるとされる。処罰ではなく、問題を解決し、再び非行に及ぶことがないように立ち直りを目指すのが少年法の考え方であり、少年事件の減少はその成果と考えていい。[br] 厳罰化を図る少年法の改正は、この流れを逆流させかねない。ここは立ち止まってじっくり考えるべきだ。