時評(5月7日)

福井県の杉本達治知事が運転開始から40年を超えた関西電力美浜原発3号機など地元3基の再稼働に同意した。 「原発運転は40年」の原則は東京電力福島第1原発事故を教訓に法改正されてできた。史上最悪の過酷事故を二度と繰り返さないという強い覚悟が背.....
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 福井県の杉本達治知事が運転開始から40年を超えた関西電力美浜原発3号機など地元3基の再稼働に同意した。[br][br] 「原発運転は40年」の原則は東京電力福島第1原発事故を教訓に法改正されてできた。史上最悪の過酷事故を二度と繰り返さないという強い覚悟が背景にあった。[br][br] 「総合的に勘案した」と原子力規制委員会の「特例」を追認した知事の判断は根拠が曖昧で原則の骨抜きにつながる。[br][br] 原発は無数の機器で構成される。心臓部の原子炉圧力容器は、核燃料を燃やすと発生する中性子を浴びてもろくなる「中性子照射脆化(ぜいか)」が起きる。全ての機器や部品は経年劣化する。[br][br] 原子炉設置許可の審査では多くの場合、運転期間を40年と仮定して設計上評価されてきた。福島第1原発1~3号機はいずれも運転40年が迫る老朽原発だった。原則には根拠があった。[br][br] 「古い原発は安全確保に限界がありリスクは否定できない」。事故後のこうした考え方に当時、多くの国民が納得した。[br][br] しかし規制委は2016年、福井県にある老朽原発3基の延長運転を認めた。運転開始から60年までの稼働を容認した決定に多くの批判が出ていた。なぜ今、同意なのか。知事や政府関係者から説得力ある説明は聞こえてこない。[br][br] 菅義偉首相は50年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを掲げる。気候変動サミットでは、30年度の排出量を13年度比46%削減すると表明した。一方、電源構成比を決めるエネルギー基本計画の改定作業が本格化している。[br][br] 政府は、再生可能エネルギーの比率を高める方針だが、削減目標達成のために「原発の持続的活用方針」を明言し始めた。新増設はままならず、老朽原発の再稼働に突き進もうとしている。[br][br] 福井県は老朽原発の運転を認める前提として、使用済み核燃料の県外搬出を求めていた。関電はむつ市の中間貯蔵施設を選択肢に挙げたが同市は反発。原発密集地なのに地元や広域の避難計画の具体化も遅れている。[br][br] 福井県には「老朽原発1カ所で最大25億円」の地域振興策が示された。地元振興は重要課題だ。事情は理解できるが、今回の知事の判断は多くの課題を先送りしたと言わざるを得ない。[br][br] 最悪シナリオは「東日本壊滅」だった福島の事故から10年。今の一連の動きはあの事故の悲惨さを忘れたかのようだ。老朽原発の安易な再稼働拡大につながることを強く懸念する。