バイデン米大統領が主催した「気候変動サミット」に40の国・地域の首脳が参加し、多くの首脳が取り組みの強化を宣言した。世界で「気候危機」が顕在化する中で大きな前進だ。[br][br] だが、時間的余裕はない。各国とも温室効果ガス排出量を削減するための実効性ある強力な対策が求められる。[br][br] 菅義偉首相は2030年度の排出量を13年度比46%削減すると表明した。並大抵の努力では達成できない数字で、再生可能エネルギーを基盤とする社会、経済構造に大転換する道しかない。政府には産業界をしっかり主導する責任がある。[br][br] パリ協定は産業革命以前からの気温上昇を1・5度に抑えることを目指している。実現には50年までに世界の排出量を実質ゼロにしなければならない。30年には10年比で45%削減する必要があるとされていた。[br][br] 基準年度は異なるが、米国の「30年に05年比50~52%減」や英国、欧州連合などの目標は10年比換算で50%近く。日本は42%程度にすぎない。日本の目標は欧米と比べまだ低いが、これまでの「26%減」から今回大幅に上積みした。欧米各国を中心とした上積みの流れが「外圧」になったにせよ、評価したい。[br][br] しかし、肝心の削減実績は19年度で「13年度比で14%減」だ。新目標とかけ離れており、上積み目標を掲げるだけでは意味がない。[br][br] 日本の二酸化炭素排出量の約4割は発電を中心とするエネルギー部門が占める。現在「エネルギー基本計画」の改定作業が進んでいる。まず、欧州などと比べ見劣りする再生可能エネルギーの比率を大幅に引き上げる。そして石炭火力発電への依存度を一気に下げる。これらが出発点となる。新目標を確実に達成するために政府は産業界と連携し、緻密で整合性のある工程表作りを早急に始めるべきだ。[br][br] 自動車、鉄鋼業界など製造業の多くの企業が「脱炭素」に向け動きだしている。「欧州グリーンディール」政策を打ち出した欧州各国と比べて日本は出遅れた。それでもこうした動きを加速させなければならない。政府は全力で民間投資や企業努力を最大限引き出す政策誘導をしてほしい。[br][br] 世界でも、日本でも異常気象が頻発し、危機感が強まっている。今回のサミットでは地球温暖化阻止という世界の共通課題で多くの国の首脳が意思統一し、日本も国際公約した。気候危機に立ち向かうためにこの国が社会、経済構造を大転換させる最後のチャンスかもしれない。