15日に開かれた衆院予算委員会の集中審議では、菅義偉首相の長男と総務省幹部らとの会食の問題が取り上げられた。[br][br] 長男が総務省にとっての利害関係者かどうかを巡って曖昧な言葉を繰り返す総務省幹部の答弁にはあぜんとしたが、首相の対応もまるで「傍観者」だった。好んで口にする「行政府の長」として、積極的に事実解明を推し進めるべきだろう。[br][br] 立憲民主党の今井雅人氏は、放送事業会社「囲碁将棋チャンネル」に対し総務省が許認可権を持つことから、同社役員の長男は国家公務員倫理規程が接待を受けることを禁じている利害関係者に当たると指摘し、総務省に確認を求めた。[br][br] これに対し総務省は同社に対する許認可権は認めながら、会食問題が国家公務員倫理審査会で調査中であることを盾に言を左右にして確認を回避。野党側の抗議で審議が中断した後、「疑義があることは否定できない」と答弁し、事実上指摘を認めるに至った。[br][br] 一方、今井氏が質疑で触れたように、総務省幹部らが長男からの誘いを断りにくかったとは想像することはできる。[br][br] かつて首相はその著書で「人事権は大臣に与えられた大きな権限です」として、総務相時代に課長を更迭した「手柄話」を記している。ほかならぬ総務官僚にとっては畏怖の対象だろう。[br][br] 会食問題が初めて取り上げられた4日の衆院予算委で、首相は「私と長男とは完全に別人格だ」と質問者の野党議員に色をなして反論した。しかし、政治家本人は意識しないとしても、官僚の立場からすれば政治家の親族への対応が政治家本人の心証を悪くするのではないかと忖度(そんたく)することはあり得る。もちろん倫理規程が禁ずるような接待はあってはならないが。[br][br] 首相は15日の予算委で「誰であっても、国民から疑念を抱かれる行動は控えるべきだ」と、まるで人ごとのような答弁を繰り返した。だが、問題とされる会食の一部は、自らが首相に就任した後の行政府で起きている。まして親族の関与がある。強い当事者意識を持って、国会への協力を含めた事実の究明を進め、同様の事態の再発防止策を検討するべきだ。[br][br] 安倍晋三前首相の退陣に伴い、森友、加計学園問題を通じて疑われた官僚の忖度によるゆがんだ行政の歴史に終止符が打たれることを期待した国民は少なくないはずだ。[br][br] 首相には透明性の高い政権運営を求めたい。今回の一件を負の遺産から脱する一つの契機とすればよい。