時評(4月4日)

十和田市の認知症グループホームで昨年4月、青森県で初めて新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生してから、間もなく1年がたつ。施設の職員は今も、当時の誹謗中傷による心の傷、拭えない自責の念に苦悩している。感染症による“二次被害”と.....
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 十和田市の認知症グループホームで昨年4月、青森県で初めて新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生してから、間もなく1年がたつ。施設の職員は今も、当時の誹謗中傷による心の傷、拭えない自責の念に苦悩している。感染症による“二次被害”とも言え、重い課題を突き付けている。[br][br] 昨春は県内でも感染者が確認され始め、未知のウイルスに対する県民の警戒感が急速に高まっていた時期。初の集団感染は、「ウィズコロナ」が定着してきた現在よりも、地域に与える衝撃がはるかに大きかった。[br][br] 職員と入居者のクラスター発生が発表されたのは、県内で初めて感染者が確認されてから19日後の4月11日だった。市はこれを受け、冷静な行動を市民に呼び掛ける臨時広報を全戸に配布。小中学校の臨時休校などの措置は、周辺の自治体にも広がった。[br][br] 一方、施設に対する中傷の電話はやまず、対応した職員の心身を疲弊させた。また、職員の家族、同じ法人の別事業所で働く同僚、その子どもも、偏見や差別の対象になった。関係者は苦しみ、自らを責めるようになった。[br][br] 施設のクラスターは、感染者の入院先の院内感染にもつながった。施設に関連する報道がある度、不当に責め立てるような電話は「思い出したように繰り返された」(施設長)。職員を支えたのは、寄せられた励ましや善意だったという。[br][br] 施設名の公表を巡って、報道機関の対応は分かれた。県は公表していないが、本紙は県内初の事案だったこと、感染防止のため地域住民に対して情報を提供する必要があるとの判断から、施設名を公表した。[br][br] 施設長は「客観的には、どこで何が起こっているのか知りたいのは当然」とした上で、「悪いことをしたわけではないのに、犯人のようでつらかった」と吐露した。コロナ禍が終息をみない中で、情報公開のあり方は今も大きな課題である。[br][br] 施設は感染に対する危機感を保つために、職員全員が毎日、県内の感染者情報を共有し、神経をとがらせる。施設内の清掃、消毒に費やす時間も従来の4倍に増やした。[br][br] 施設長によると、施設内の新型コロナが沈静化した後でも、同業者に施設名を伝えた際、後ずさりをされた。偏見が根深いことの証左であろう。[br][br] 対策を講じてもクラスターは発生しうる。中傷は心の傷しか生まないことを再認識し、当事者に思いを寄せる必要がある。