旧日本軍の元従軍慰安婦が日本政府に賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁は原告の訴えを却下した。日本による韓国の植民地支配に絡み日本企業や政府に賠償を命じる司法判断が相次ぎ、日韓関係の悪化をもたらしてきたが、こうした流れに歯止めとなるだろうか。[br][br] 今年1月、同地裁は別の元慰安婦の同種訴訟で、賠償を命じる判決を出しており、相反する結果となった。両裁判の争点は、国家は外国の裁判権に服さないとされる国際法上の「主権免除」を認めるかどうかだった。[br][br] 1月の判決では、「反人道的犯罪行為」に主権免除は適用できないと判断した。だが今回の判決では、主権免除の原則を認めた。国際法の主流の考えを重視した妥当な判断といえよう。[br][br] 1月の判決を巡り、訴訟費用確保のための日本政府資産の差し押さえを認めない決定が3月に出されていた。今回の判決同様に「国際法に違反する恐れ」と判断した。[br][br] 1月の判決については、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領も「困惑している」と述べた。この発言が、今回の司法判断に影響を与えたとの見方もある。今回の判決は、主権免除原則を適用せずに裁判を行えば被告である日本との「衝突が予想される」とし、慰安婦問題の解決を裁判で図ることに否定的な姿勢を示した。[br][br] その上で2015年の慰安婦を巡る日韓政府間合意を評価し、日本の「謝罪と反省の内容」が含まれた「政府レベルの権利救済」で今も有効だとした。文政権は司法判断を尊重するとして具体的な解決策を示してこなかった。判決を受け解決に向け動きだすべきだ。[br][br] 合意は「日韓両政府が協力し、元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷を癒やすための事業を行う」としている。日本は合意などで元慰安婦問題は解決済みとするのではなく、元慰安婦の「心の傷を癒やす」ために必要な対応をとるべきだろう。[br][br] 元慰安婦は高齢で、相次いで亡くなっており、元慰安婦で存命の人は14人。時間は残されていない。司法ではなく、外交交渉で解決を図るべきだ。[br][br] 元徴用工問題なども日韓関係悪化の要因だ。日米、日韓の外務・防衛閣僚協議では、日米韓の協力の重要性が確認された。それには日韓関係の改善が欠かせない。姜昌一(カンチャンイル)新駐日大使と菅義偉首相や茂木敏充外相との会談が実現せず、茂木外相と韓国の鄭義溶(チョンウィヨン)新外相との電話会談もまだだ。日本側が会談に応じていないのなら、そうした外交的に未熟な態度は改めるべきだ。