日本が参加する自由貿易協定、環太平洋連携協定(TPP)に、英国が加盟申請した。認められれば、TPPの枠組みが太平洋周辺国から欧州に拡大することになる。世界的な保護主義的傾向に加え、コロナ禍で世界貿易が打撃を受ける中、英国の参加で自由貿易の枠組みが広がることの意義は大きい。日本は今年、TPP委員会の議長国でもある。自由貿易圏の拡大に向けた役割を期待したい。[br][br] TPPには、カナダ、オーストラリア、シンガポールなどアジア・太平洋地域の11カ国が参加している。域内の関税撤廃や、電子商取引、知的財産権など幅広い分野でルールを定めており、2018年に発効した。[br][br] 英国は昨年1月の欧州連合(EU)離脱によって可能となった独自の通商政策の柱にTPPを据え、経済成長が今後期待できるアジア市場とのつながりを深めたい考えだ。[br][br] TPPには、台湾や韓国なども参加意欲を見せている。最大の課題は、オバマ政権時代に加盟に向け大筋合意していたものの、トランプ政権発足で離脱した米国が復帰するかどうかだ。バイデン新大統領は、雇用など国内問題を最優先課題としているだけに、仮に復帰するとしても2022年秋の中間選挙までは難しいとの見方が多い。[br][br] オバマ政権はTPPを、アジア・太平洋地域で影響力を強める中国をけん制する対中包囲網と位置付け、各国に参加を働きかけていたが、離脱によりその性格は薄れた。[br][br] 代わって、TPP加盟に意欲を示したのが中国だ。国有企業への優遇策の見直しなど、クリアしなければならない課題は多く、ハードルは高いとみられているが、中国は昨年11月、東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とした地域的な包括的経済連携(RCEP)協定をリードしてまとめた。安全保障と絡めてアジア・太平洋圏での地域的覇権を確立したい考えだ。[br][br] 英国のTPP参加に向けた具体的交渉は今春にも始まる。TPPが定める通商分野はRCEPより広く、貿易自由化度の水準は高い。関税率や各種ルールを定めるにあたっては、参加11カ国間で合意した現行の基準を尊重するのが筋だ。参加の条件をあまり緩めればこの先、禍根を残すことになりかねない。[br][br] 日本は米国がTPPを離脱した後、自由貿易圏の旗を掲げてきた。英国の加盟をてこに、世界的な保護主義の流れに歯止めをかけ、米国の復帰を含め新規加盟に向けた環境整備により力を入れることが求められる。