時評(3月10日)

世界を震撼(しんかん)させた東京電力福島第1原発事故から10年。「あの時」、国内では多くの人が水素爆発と大量の放射性物質漏れの恐怖に震えた。最悪シナリオは「東日本壊滅」だった。あの事故はこの国にとってそれほど重く深刻だった。 そして今。事故.....
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 世界を震撼(しんかん)させた東京電力福島第1原発事故から10年。「あの時」、国内では多くの人が水素爆発と大量の放射性物質漏れの恐怖に震えた。最悪シナリオは「東日本壊滅」だった。あの事故はこの国にとってそれほど重く深刻だった。[br] そして今。事故現場では困難な処理作業が延々と続く。政府は2041~51年を廃炉完了時期とするが、実際いつ終わるか、全く見通せない。これから長い間「後始末」を続けなければならない。東電と政府には極めて重い責任がある。[br] 福島県では10年たっても3万人近くが県外での生活を余儀なくされている。帰還困難区域は7市町村の300平方キロを超える。復興はまだまだ途上だ。[br] 事故現場周辺の放射線量はかなり低下したが、一部ではなお高い線量が残る。今日も4千人前後の作業員が悪条件下で賢明の作業を続けている。[br] 今年中の予定だった2号機での溶融核燃料(デブリ)取り出しは1年延期になった。2、3号機の原子炉格納容器上部に高濃度の放射性セシウムが大量に付着していることが判明。計画中の「気中工法」は見直しを迫られる可能性も出てきた。[br] 作業の進展で増える一方の汚染水を浄化した処理水の貯蔵タンクは千基を超え、来年秋以降満杯になる。政府は海洋放出したい考えだが、地元の反対は強く、最終決定できないでいる。[br] 3号機では使用済み核然料の搬出を最近完了した。しかし1、2号機で搬出が始まるのは早くてもそれぞれ27年度、24年度以降になるという。[br] 事故前は全国で50基以上あった原発は事故後に21基の廃炉が決まり、9基が再稼働した。政府は30年度の発電量に占める原発比率を20~22%にする計画だが、達成は困難な情勢だ。[br] 政府は50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする方針も掲げる。再生可能エネルギーの活用を進める一方、「原発頼み」も否定しない。だが、高レベル放射性廃棄物の最終処分場は決まらず、核燃料サイクル政策も遅々としている。[br] 政府が全力で「後始末」しなければならないのは当然だ。同時に山積する課題も先送りせずに解決しなければならない。[br] 廃炉を見届けるのは未来の世代になる。原発による電力の恩恵に浴してきた現世代の私たちも、あの恐怖を後世に伝え、原発とどう向き合うかを考え続けるべきだろう。[br] 原発を巡る諸問題を広く議論することも必要だ。それが政府を監視することにつながる。