菅義偉首相が目指す社会像「自助、共助、公助」の順番が、新型コロナウイルス対策と絡んで国会論戦の焦点となった。自民党議員も指摘した「今こそ公助の出番」に首相は「コロナ禍では当然」と同調しながらも、自身の考え方は「変わっていない」と答弁。第一に自助を掲げることの必要性を強調した。[br][br] 国民の負担を軽減する代わりに、自助を促す「小さな政府」は、まっとうな選択肢の一つではある。しかし財務省が公表した2020年度の租税などの国民負担率(実績見込み)は46・1%と過去最高を更新した。これまでの推移を見ると、コロナ禍以前でも国民負担は増加の一途をたどってきたことが分かる。[br][br] 国民に所得の5割近い負担を課しながら、自助優先、公助後回しを掲げるのは全く説得力を欠く。コロナ後は暮らしの安定と格差是正に向け、公的部門の役割が高まるだろう。世界が模索する方向にも逆行している。[br][br] 国民負担率は、税と医療・年金など社会保障費負担の合計が国民所得に占める比率だ。マクロ的な数値だが、国民負担の推移や国際比較上も重要な指標で、毎年財務省が国会に提出する。[br][br] 20年度は46・1%と、前年度の44・4%から跳ね上がった。これは、負担が租税0・5%、社会保障費1・3%と増加した上に、コロナ禍の経済不振で「分母」の国民所得が24・3%も激減したことが大きく響いた。[br][br] 21年度は所得が上向くため、負担率も44・3%に下がると見込むが、過去10年では、37%から年約1%の上昇ペースだ。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で負担率は26番目とまだ少ない方だが、負担が高まる傾向は明らかだ。[br][br] とはいえ、国民負担が少ない方がより望ましい社会というわけではない。スウェーデンやデンマークなど北欧諸国は60%前後と負担率は高いが、年金・医療など公共サービス(公助)の充実と、スリムで効率的な政治とで国民の満足度は高い。国民負担率が妥当かどうかは結局、公助とのバランス、政治に対する信頼度次第と言える。[br][br] 日本はどうか。国民がいずれ背負う財政赤字を含む潜在的国民負担率は21年度で56・5%と北欧諸国並みに上がる。その割に受益は見劣りし、負担とのバランスの悪さは明白だ。[br][br] やるべきことは、国民に自助を促すより、デジタル化の遅れなどで目詰まり気味の社会保障・福祉サービスの強化、そして国会議員の高額歳費見直しも含む政治の効率化、信頼回復のはずだ。