米国の中東政策がバイデン政権になって大きく転換した。際立っているのはイランとサウジアラビアに対する政策だ。中東が世界の火薬庫という不安定な状況は続いており、サウジの軍事介入で戦火にあえぐイエメンの人道危機は深刻だ。バイデン大統領が地域の紛争の火消しに努め、本腰を入れて人道支援に取り組むよう求めたい。[br][br] トランプ前政権はイランを敵視し、オバマ元政権がまとめた核合意から離脱し、両国の緊張を戦争の瀬戸際まで高めた。これに対し、早くから核合意復帰を明言していたバイデン氏は先月、イランとの対話を提案した。だが、イラン側が拒否し、対立は続いたままだ。[br][br] イランが拒んだのはバイデン氏が復帰の条件として、イランがウラン濃縮などの合意破りを是正することが先決とした上で、弾道ミサイル開発の制限や地域の武装組織への支援中止も要求する考えを示したためだ。[br][br] イラン側は一方的に離脱した米国がまず無条件に復帰し、制裁を解除するのが筋と主張しているが、その言い分には一定の合理性がある。しかし米世論や、議会にはイランに譲歩することに強い反発があり、無条件で復帰することは難しい。[br][br] ただ、経済の悪化でより困っているのはイラン側であり、いつまでも突っ張ってはいられない。バイデン政権にも、6月のイラン大統領選挙で反米の強硬派政権を誕生させないため、穏健なロウハニ政権に得点を稼がせたい思惑があり、両国が妥協点を探る余地はあるだろう。[br][br] トランプ前政権がイラン包囲網で最も重視したのがサウジだ。特に同国を牛耳るムハンマド皇太子と親密な関係を築き、皇太子が主導したイエメン内戦への武力介入を支持し、軍事援助を続けた。その結果、イエメンには世界最悪の人道危機が生まれることになった。国民の3分の1が飢餓の危機にあるという事態はもはや放置できない。[br][br] バイデン氏は戦争に関わるサウジへの軍事支援を停止したほか、サウジ人反政府ジャーナリスト殺害を「皇太子が承認した」とする米情報機関の報告書を公表、サウジに厳しい姿勢を打ち出した。[br][br] 複雑なのはそもそも、イエメンの内戦が暫定政府を援助するサウジと、フーシ派を支援するイランとの代理戦争になっている点だが、同派はサウジの石油施設への攻撃を激化させるなど戦争が終わる見通しはない。[br][br] 影響力が低下したとはいえ、米国の存在感は大きい。バイデン氏は地域の平和に向け、今こそ強力な指導力を示す時だ。