政府が東京電力福島第1原発で増え続ける処理水を海洋放出する方針を正式決定した。処理水は汚染水を浄化しても除去できない放射性物質のトリチウムを含む。漁業関係者らは最後まで反対したが政府は安全性に問題ないと押し切った。[br][br] 技術的、政策的に本当に検討を尽くしたか。手続きは万全だったか。改めて問われる。[br][br] 第1原発の廃炉作業で生じる処理水の保管タンクが敷地を埋めている。来年の秋以降タンク容量が満杯になるという。 政府の小委員会は昨年の2月に海洋や大気への放出が現実的との提言をまとめ、政府は10月に海洋放出の方針を固めた。[br][br] しかし地元や漁業者らは猛反発した。漁の回数などを大幅に抑える「試験操業」を長く続けながら本格操業を目指してきた。反発は当然だった。[br][br] 「トリチウムは既存の原発からも一定の量、濃度で放出されている」「処理水は国の基準より大幅に希釈され、福島第1原発から全量海洋放出されても人体への影響はない」。これが政府見解だ。[br][br] だが、事故の後、辛苦の日々を送ってきた地元や漁業関係者に「科学的に安全」と繰り返しても簡単には伝わらない。風評被害を防ぐ具体策を示し、被害が起きた場合の手厚い補償を東電に確約させる必要がある。[br][br] トリチウムの徐去を目指す技術の研究もある。技術が開発されるまで地上で保管するための敷地を別に確保すべきだとの意見もある。どうして海洋放出なのか、広く国内外に理解されなければ風評被害は起きる。[br][br] 廃炉作業は事故炉の溶解核燃料(デブリ)の取り出し方法も決まらず大幅に遅れている。菅義偉首相は国会で「(処分方法決定を)先送りすべきでない」と強調。決定に際しては「私自身が説明して理解をいただけるようにしたい」と述べた。[br][br] 一方「合意よりも廃炉作業を優先させたのではないか」との指摘も聞かれる。否定するならば首相はこうした声にも丁寧に答えてほしい。地元や漁業関係者の納得を得られないまま海洋放出を強行した場合、反発は一層強固になる。処理水は廃炉作業に伴って発生し続ける。かたくなな姿勢は地元の協力を得て進めなければならない作業にも大きな影響を与えるだろう。[br][br] 東電はずさんな核防護対策などが相次いで発覚。事業者としての主体性も信頼も完全に失われた。もし政府と東電が海洋放出に突き進むとどうなるか。国民的理解は得られず、処理水問題の根本的解決は難しくなる。