時評(5月3日)

日本国憲法は施行から74年を迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、東京、大阪など4都府県では昨年と同様に緊急事態宣言下での憲法記念日となった。 コロナ禍が長引いている結果、日本国民は不自由な生活を強いられ、飲食店などへの休業要.....
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 日本国憲法は施行から74年を迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、東京、大阪など4都府県では昨年と同様に緊急事態宣言下での憲法記念日となった。[br][br] コロナ禍が長引いている結果、日本国民は不自由な生活を強いられ、飲食店などへの休業要請といった政府や自治体による私権制限が常態化している。職を奪われたり、家賃が払えなくなったりするなど、困窮する人たちは急増している。[br][br] 憲法25条が規定する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を事実上失ってしまった層が少なからず存在しているのが実態でもある。この国が未曽有の困難から脱却しようとあえぐ今、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という憲法の基本原理がいかに大切であるかが浮き彫りにされている。[br][br] 憲法に対する国民意識が変化してきたことは否定できない。条文を一言一句変えてはならないという護憲論は少数派だ。共同通信が憲法記念日を前にまとめた世論調査では、コロナなど感染症や大規模災害に備え緊急事態条項を新設する憲法改正を57%が「必要だ」と回答した。[br][br] 緊急事態条項を容認する声が強まったのは、コロナ感染症のまん延を阻止できないことへの不安があるからだ。自民党などには、コロナ禍を奇貨に改憲論議を加速させたいとの思惑もうかがえる。だが、政府に私権制約の強力な権限を付与するかどうかの議論を拙速に進めてはならない。[br][br] 時短営業など事業者への痛みを伴う措置には、現在政府が支給している「協力金」という形式ではなく、憲法に基づく補償という方法も検討すべきだろう。[br][br] 憲法の平和主義の証しである9条についても改正の必要性を指摘する意見が広がりつつある。北朝鮮が弾道ミサイル能力を向上させ、中国も沖縄県・尖閣諸島周辺で海警局船による領海侵入を繰り返していることが、改正論とともに敵基地攻撃能力の保有論につながっている。[br][br] 一方で、戦後堅持してきた国是である専守防衛からの逸脱は許されない。9条改正の是非については結論を急がず、丁寧な議論が求められる。[br][br] 現在、国会では憲法改正手続きに必要な国民投票法改正案の採決に向けた与野党の攻防が続く。自民党は改憲論議を進めていく方針だが、立憲民主党などは慎重な姿勢で、改憲への機が熟しているとは到底言えない。[br][br] まずは戦後の平和と繁栄の土台となってきた現行憲法の基本原理の再確認から始めたい。