東京電力の管理体制はどうなっているのか。原発を運転する適格性はあるのか。組織の体質に疑念を抱かざるを得ない。[br][br] 東電柏崎刈羽原発でずさんな核防護対策が発覚し、原子力規制委員会が同原発での核燃料の移動を禁じる是正措置命令を出す方針を決めた。事実上の運転禁止命令で、商業炉では初めてだ。東電は地に落ちた信頼を取り戻すために組織の体質を早急に、根本的に改革しなければならない。[br][br] 政府は福島第1原発事故の後も原発再稼働方針を掲げながら東電の管理体制上の重大な問題を見抜けなかった。その責任も重い。[br][br] 原発の燃料となるウランなどはテロリストに盗まれると核兵器製造に転用される恐れがある。このため核防護の徹底は、原子力施設を運用する大前提だ。東電はテロ対策を軽視したと言われても仕方がない。[br][br] 問題は1月に協力企業の作業員が侵入検知設備を誤って壊したことから発覚。規制委が現地検査をして昨年3月以降、計15カ所の設備故障があったことが判明した。同様の故障は2018年から起きていたという。世界の核防護関係者はあぜんとするだろう。[br][br] 同原発では1月、所員が同僚のIDカードで中央制御室に不正入室していたことが発覚。完了したとしていた7号機の安全対策工事の一部が未完了だったことも明らかになった。福島第1原発では毎日多くの作業員が困難な廃炉作業を続けているというのに東電の組織管理のずさんさは目を覆うばかりだ。[br][br] 福島第1原発の事故対応費用は廃炉に8兆円など総額22兆円で、うち16兆円は東電負担だ。東電は柏崎刈羽原発の再稼働で1基当たり年900億円の収支改善を見込んでいた。[br][br] しかし今回の不祥事で再稼働によって事故処理費用を工面する、という東電と政府が描く枠組みは大きく揺らいだ。[br][br] 菅義偉首相は参院予算委員会で「東電の体質や原発を扱う資格にまで疑念を持たれてもやむを得ない」と答弁している。首相の批判は当然だが、政府は東電の株の過半数を実質的に持つ立場だ。当事者意識を持ってその責務の重さを自覚してほしい。[br][br] 規制委の更田豊志委員長は「東電には柏崎刈羽原発で燃料を移動させる資格がない」と述べた。だが、問われるべきは適格性そのものだ。規制委は昨年9月に適格性を認定した。今回、東電に半年以内に出すよう求めた改善計画の内容を精査し、再審査も検討すべきだ。