天鐘
週間記事ランキング
 「自然の眼には人間も蚤(のみ)も同様に写る」。関東大震災を驕(おご)る人間社会への「天罰」と戒めた財界の大御所渋沢栄一に、芥川龍之介はロシアの文豪ツルゲーネフの散文詩を引いて反論した▼記録的な大雨で河川の氾濫など被害が拡大する熊本豪雨。猛威にただ嘆息するばかりだ。その自然災害時に度々起こる「天譴(てんけん)論」に、芥川は自然の眼には人も蚤も一緒で、善悪も関係なく襲来すると反駁(ばく)した▼人も物もお金も集まる首都・東京。江戸期から400年以上「一極集中」が続き、あらゆる物を飲み込んできた。新型コロナ然(しか)り。一見、自然災害にも見えるが、実は東京が呼び込んだ“人災”と言えなくもない▼1400万人が暮らす世界最大の超過密都市。“3密好き”の彼らがこの楽園を見逃すはずもない。案の定、外出自粛の解除後、“夜の街”が再燃。感染の波が地方にも飛び火しそうだが、手も足も出せない▼大企業の7割が本社を置き、国税の4割が懐に入る東京。地方はその才知を信じながらも、一喜一憂の毎日だ。昨夜開票された都知事選で再選確実の小池百合子氏には、急ぎ検査体制と医療体制の拡充を求めたい▼検査・追跡・待機の処方箋を守れば不安が拭われ、休業なしで経済が回るとも。東京一極集中には“国の機関車”と“諸悪の根源”との功罪2説ある。何とか煤(ばい)煙をまき散らかさない機関車としての牽引役に期待したい。