天鐘(3月26日)

未曽有の原発事故が発生したのは9年前。非科学的な言説も流布し、放射能への恐怖をあおった。盛んに使われた言葉がある。「正しく恐れる」。猛威を振るう新型肺炎に、あらためて意味を考えてみる▼元は随筆の一節である。明治中期から昭和初期の物理学者・寺.....
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 未曽有の原発事故が発生したのは9年前。非科学的な言説も流布し、放射能への恐怖をあおった。盛んに使われた言葉がある。「正しく恐れる」。猛威を振るう新型肺炎に、あらためて意味を考えてみる▼元は随筆の一節である。明治中期から昭和初期の物理学者・寺田寅彦が浅間山の爆発について書いた。「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」▼「恐れる必要はない」。原発事故では不安を抑え込む文脈で用いられることも多かった。当時から違和感はあった。正しい知識に基づき、適切に対処し「恐れを軽減する」。それこそが真意であろう▼全国で感染者が拡大する中にあっても空白地帯だった青森県。八戸市で初めて確認されると、一気に6人にまで増えた。数日前まで楽観的な雰囲気すらあったが、今は疑心暗鬼が広がっている▼五感では確認できない“見えない敵”だ。直感的に不安になるのは当然である。特効薬がない現状で、客観的な冷静さを保つために必要なのは情報。最大限に公開することで、信頼が生まれ、適切な行動につながるのではないか▼手洗いやアルコール消毒を徹底し、感染のリスクを減らす。体調に異変を感じたら、まずは相談窓口に電話を入れる。自分を、他人を思いやって振る舞う。「正当にこわがる」。寺田の箴言(しんげん)をかみしめる。