新型コロナウイルスの世界的流行により7月24日の東京五輪開幕が1年程度、延期されることになった。開催時期を巡る混乱はいったん落ち着きそうだ。五輪を目指す選手も、大会準備に携わる人たちも、全てをリセットして1年後に向けて再スタートしてほしい。[br] 急激な感染拡大が欧州や米国にも広がり、スポーツ界への影響も深刻だ。各競技で試合の中止、延期が相次ぎ、五輪代表選考にも支障が出ていた。練習環境を確保できない選手もいる。それでも国際オリンピック委員会(IOC)、日本政府、大会組織委員会は、口裏を合わせたように7月開催に向けた準備を進めると強調していた。[br] スポーツ界の現場の声が、「予定通り」にこだわった各組織を動かした。選手や競技団体から開催延期の要求が高まった。IOCはようやく重い腰をあげ、延期も含めて4週間かけて検討すると表明したばかりだった。その4週間でさえ「時間をかけすぎ」と批判された。[br] 安倍晋三首相から提案する形で、バッハIOC会長が延期に同意した。開催国日本は、マラソンの札幌移転などでこれまでIOCの言いなりになっているようにも見えた。五輪運営で日本側が主体性を取り戻す契機になればいい。[br] 常識的にみても感染症の流行下では世界中から選手、観客が集う五輪を開くことは不可能だ。中止にならず、大幅に延期してでも開催されることで五輪運動が継続できると評価したい。[br] 一方で約1年もの延期は各方面に困難な作業と新たな負担を生じさせる。会場や宿舎の手当て、準備担当者の人件費などに一段と巨費がかさむ。入場券取り扱いも複雑だ。過密な国際スポーツ日程調整も至難だ。[br] 既に代表に選ばれている選手、これから五輪を目指す選手双方に新たな課題が生まれた。コンディションとモチベーションをどう維持するか。選手選考方法が再考されるかもしれない。スポーツの根幹である公平性の担保が最も大事だろう。[br] 五輪は戦争による中止はあるが延期は初めてだ。今回はパラリンピックも延期される。スポーツは平和で平穏な社会でなければ成立しないことがあらためて認識された。[br] 福島県から始まる予定だった聖火リレーはいったん取りやめとなり、新たに設定される開幕日に合わせてスケジュールを組み直す。世界が協調して新型ウイルスを克服したうえで、東京・国立競技場にともされる1年遅れの聖火を待ちたい。