天鐘(3月29日)

今年の春はひときわ早い。既に桜が満開の東京ほどではないにせよ、北国の日差しも華やいできた。木々の芽が膨らみ、野原も心なしか明るい色に。コロナウイルスは恨めしいが、うららかな気持ちにはなる▼穏やかな日は、まさに「春風駘蕩(たいとう)」。一方で.....
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 今年の春はひときわ早い。既に桜が満開の東京ほどではないにせよ、北国の日差しも華やいできた。木々の芽が膨らみ、野原も心なしか明るい色に。コロナウイルスは恨めしいが、うららかな気持ちにはなる▼穏やかな日は、まさに「春風駘蕩(たいとう)」。一方で、ことわざは「春に三日の晴れなし」とも伝える。北方でくすぶる寒気と、南方から張り出そうとする暖気が、上空でせめぎ合っている。春の天気は変わりやすい▼「春北風(はるならい)」は春の季語。季節の変わり目には、冬に逆戻りしたかのような冷たい風が、時に雪を伴って強く吹く。一進一退を繰り返し、ようやく迎える本格的な春。だからこそ喜びはひとしおで、心が躍るのだろう▼俳誌「たかんな」を主宰した亡き藤木倶子さんは、温かく確かな写生で風土を詠んだ。〈海猫低く翔べる羽風や春北風〉。越冬地から飛来し、寒風を切るウミネコ(別称・ゴメ)に、生への息遣いを感じる▼国の天然記念物・蕪島がにぎやかだ。今は繁殖地への“帰省ラッシュ”。巣作り、産卵を経て、菜の花が鮮やかになる頃、新しい命が誕生する。その営みを見守るのが木香漂う社殿。生まれ変わった蕪嶋神社である▼悲嘆に暮れた火災から約4年半。古(いにしえ)より信仰を集める地域の象徴が、多くの善意に支えられて再興した。2階建てになって趣は変わったが、やはりウミネコの乱舞が似合う港町の弁天さまである。