天鐘(6月24日)

作詞家になる前、まだ独身だった阿久悠さんは24歳のとき、栄養不足から肝臓をやられて一人病床にあった。心細い日々を過ごしていたある日、ラジオから不思議な歌声が流れてくる▼〈ウエヲムフヒテ、アルコホホホ〉。とたんに熱いものがこみ上げた。「涙がこ.....
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 作詞家になる前、まだ独身だった阿久悠さんは24歳のとき、栄養不足から肝臓をやられて一人病床にあった。心細い日々を過ごしていたある日、ラジオから不思議な歌声が流れてくる▼〈ウエヲムフヒテ、アルコホホホ〉。とたんに熱いものがこみ上げた。「涙がこぼれないようにと言われるのだが、わけ知らず大量の涙を流したことを覚えている」と、自著『愛すべき名歌たち』にある▼坂本九さんの「上を向いて歩こう」が出たのは1961(昭和36)年。大ヒットとなり、全米1位に輝いたのが63年の6月だった。サビの哀調から、すぐに明るく立ち直る旋律。今も日本人を励まし続ける名曲である▼東日本大震災の年にCDが再販され、瓦礫(がれき)の街を勇気づけた。今年また、感染症に沈む中、多くの歌手がネット上で口ずさむ。くじけそうになる心に水を与えてくれる歌があることの幸せを思う▼コロナに翻弄(ほんろう)されつつ、今年も間もなく折り返しだ。思えば、これまで何度か、上を向いて元気をもらった。花火師たちの心意気がはじけたサプライズの大輪。ブルーインパルスが青空に描いた感謝の航跡も忘れられない▼そして、先日の一瞬の豪雨の後に現れた、あの色鮮やかな虹。誰もがこの先の希望を重ね合わせたことだろう。皆で頑張れば、少しずつ前に進むことができる。空にいる九ちゃんが、笑って、そう教えてくれているようだった。