天鐘
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 「和敬清寂(わけいせいじゃく)」とは茶道で主人と客が心和やかに互いを敬い、茶室の雰囲気を清寂に保つことだという。「佗(わ)び茶」を完成させた茶聖、千利休が茶の湯の精神をこの4文字に込めた▼織田信長に茶堂として抱えられ、信長亡き後は豊臣秀吉に仕えた。美の探求者であり政(まつりごと)にも深く介入する野心家でもあった。だが、最後は秀吉の逆鱗に触れ、1591(天正19)年2月28日、自害して果てた▼利休が求める侘びの美と秀吉の“金ピカ趣味”が相容れる訳がない。命と引き換えに「利休七則」を残した。何事も「相手の気持ちに」「丁度良い手順で」と続き、最後に「周囲への気遣いを忘れるな」と説いた▼虚心で客を迎えて厚くもてなす。滝川クリステルさんが東京五輪招致で行ったプレゼン「お・も・て・な・し」に重なる。だが今、世界は新型コロナウイルスの感染拡大で連日数千人の犠牲者が出る異常事態▼ウイルスは五輪などお構いなしに暴れまくる。なおも「完全な形での開催」(安倍首相)にこだわる日本に、死者が急増している国々から「無責任」との批判が噴出。ついに23日、首相の口から「延期」が漏れた▼JOCも日本も判断が遅すぎる。七則には気遣いに加え、「約束より早く」とも。千家は利休切腹から1カ月後の今週27日を命日にしている。何処からか「気遣いともてなしを忘れている」と利休の叱責が聞こえてくるような。