天鐘(3月22日)

つい先日、全線復旧した三陸鉄道リアス線の駅からは、いくつもの物語が生まれる。今年公開された映画「風の電話」の重要な場面にも、二つの駅が登場していた。岩手県の大槌駅と浪板海岸駅である▼東日本大震災で家族を亡くした主人公の少女が、「風の電話」と.....
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 つい先日、全線復旧した三陸鉄道リアス線の駅からは、いくつもの物語が生まれる。今年公開された映画「風の電話」の重要な場面にも、二つの駅が登場していた。岩手県の大槌駅と浪板海岸駅である▼東日本大震災で家族を亡くした主人公の少女が、「風の電話」というものを知り向かうシーン。どちらの駅も震災と昨年の台風19号で被災した。苦難を乗り越える姿と重なる▼「風の電話」は実在する。大槌町在住のガーデンデザイナー佐々木格さんが、死別した人と「もう一度話したい」という思いで自宅の庭に設置した電話ボックス。電話線はつながっていない。心で話すのだという。震災後、多くの人が足を運び、映画化につながった▼主人公の台詞せりふが被災地の人たちとだぶる。「なぜ自分が生きているのか」。今月初め、同町を訪ねた際に「小川旅館 絆館」の女将小川京子さんからもこの言葉を聞いた。親友と常連客は亡くなったのになぜ…▼ショックと代々続く老舗旅館を廃業させかねない不安で追い詰められるように。一時は死に場所を探していたというのも主人公と重なるが、お客から寄せられた励ましの電話が前を向く力になった▼今は住宅地の仮設建物で営業中だ。「絆館」とは再出発に当たり加えた名前。三鉄も人の縁を結び、絆となる存在として復活した。駅はこれからも被災地と新しい物語を紡いでいく。そう強く願う。