天鐘(2月21日)

清水寺に一緒に参詣した老尼が、道中「くさめ、くさめ」と言い続ける。その訳を尋ねると「鼻ひたる(くしゃみをした)時にこの呪(まじな)いをしなければ、自分がお世話した坊ちゃんが死んでしまうからだ」と答えた▼「比叡山で修行中の子がくしゃみをしたか.....
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 清水寺に一緒に参詣した老尼が、道中「くさめ、くさめ」と言い続ける。その訳を尋ねると「鼻ひたる(くしゃみをした)時にこの呪(まじな)いをしなければ、自分がお世話した坊ちゃんが死んでしまうからだ」と答えた▼「比叡山で修行中の子がくしゃみをしたかもしれないと思うと心配で…」と嘆く。稚児に対する老尼の直向(ひたむ)きな愛情を描いた吉田兼好の『徒然草(つれづれぐさ)』(第四十七段)だ▼「ハクション」と来れば誰かが噂(うわさ)を―と思うが、鎌倉時代には「鼻から霊魂が抜け出て寿命が縮む」と恐れられた。平安時代、清少納言の『枕草子』にはくしゃみと同義の「鼻ひたる」が憎きものとして登場する▼くしゃみは鼻腔内のウイルスなどの異物を排出しようとする反射的な防衛反応。“噂”で済ます今の方が事実を誤認、そんな事情を知る由もない古(いにしえ)の老尼が「正しく恐れる」極意を知っていたのかもしれない▼漢字は「嚔(くさめ)」。呪(のろ)いがこもると忌み嫌われ、くしゃみの後に「糞(くそ)を食(は)め」とやり返したのが語源とか。今も思わず「クソッ」とか「チクショー」と汚い言葉が口を突いて出るのは、呪詛(じゅそ)返しの名残だから仕方ない▼新型コロナウイルスの嚔や咳(しわぶき)は恐怖だ。クルーズ船に乗っていた高齢者2人が死亡。陰性の乗客がやっと放免されたが、国の後手後手の対応に世界から“ミニ武漢”と集中砲火。国の言う「正しく」とは何か。疑心暗鬼も拡大している。