天鐘(3月11日)

岩手県大槌町の赤浜地区。大槌湾入り口の高台に、東日本大震災後に建った碑(いしぶみ)がある。刻まれているのは「ひょっこりひょうたん島」の歌詞。作家の井上ひさしさんらが原作を書いた、人形劇の主題歌である▼湾内に浮かぶ蓬莱島(ほうらいじま)は、ひ.....
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 岩手県大槌町の赤浜地区。大槌湾入り口の高台に、東日本大震災後に建った碑(いしぶみ)がある。刻まれているのは「ひょっこりひょうたん島」の歌詞。作家の井上ひさしさんらが原作を書いた、人形劇の主題歌である▼湾内に浮かぶ蓬莱島(ほうらいじま)は、ひょうたん島のモデルとされる。漁業者が漁の安全を祈願する町のシンボルも、あの日被災した。今は修復され、震災の記憶と教訓をとどめる存在となっている▼住民は歌詞に自分たちを重ねた。〈苦しいこともあるだろさ 悲しいこともあるだろさ だけどぼくらはくじけない〉。津波で大切な家族を突然奪われた悲しみは癒えない。それでも乗り越えようと誓うために▼大槌町は津波の常襲地帯。古来、幾度も被害に遭い、東日本大震災では1286人が命を落とした。亡くなった人たちの記憶を記録に残そうと、町は他に例を見ないような回顧録の作成に取り組む▼数年かけて遺族を訪ね、聞き取り作業で刊行した『生きた証』。犠牲者一人一人の写真付きで人柄と生前の歩み、震災時の状況、遺族が寄せる思いを記した。故人を忘れないという、胸の内の温度と重さまでも伝わってくる▼今日で丸9年がたった。記憶の風化が危惧される。記録誌も伝承施設も、後世へ教訓を伝え残す重要な語り部となる。日本もひょうたん島と同じ島国。どこに住んでいても、被災地の記憶と悲しみを共有することはできる。