天鐘(3月21日)

「そんな莫迦(ばか)な話があるか。鮮人(せんじん)が地震を予知していたわけはあるまい」。1923年9月1日、関東大震災で混乱する東京で、朝鮮人が暴動を起こしているとのデマを作家の広津和郎が全面否定した(『年月のあしあと』)▼朝鮮人への蔑視が.....
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 「そんな莫迦(ばか)な話があるか。鮮人(せんじん)が地震を予知していたわけはあるまい」。1923年9月1日、関東大震災で混乱する東京で、朝鮮人が暴動を起こしているとのデマを作家の広津和郎が全面否定した(『年月のあしあと』)▼朝鮮人への蔑視が震災で増幅され、刀や竹槍(たけやり)で武装した一部自警団が無辜(むこ)の朝鮮人や中国人、社会主義者ら数千人を虐殺した事件だ。「井戸に毒を入れる」とか「爆弾を投げる」といった空疎な流言を信じた▼国は戒厳令を宣告、治安に努めるが事態は逆に展開。言論統制も厳しく、もし漏れたら広津も自警団の標的になっていた。芥川龍之介は伏せ字と回りくどい論理を駆使して官憲の目をかい潜(くぐ)った(『大震雑記』)▼14世紀に流行(はや)ったペストでもユダヤ人が「井戸に毒を入れた」とデマが。非常事態にこそデマを真に受ける人と冷静に判断する人とに分かれる。新型コロナウイルスでも東洋人が暴行を受ける事件が相次いだ▼パンデミックで世界は出入国を制限、玄関を閉じてしまた。息を潜めて見えない敵と対峙(たいじ)すればストレスは募るばかり。自国第一の米国は無論、融和を掲げるEUさえ排他的になりかけている。不満の暴発が怖い▼鎖国に入るほど情報は乱れ飛ぶ。米国が「武漢ウイルス」と呼べば中国は「米軍のテロ」と言い返す。これこそが“利己的”と言われるウイルスが仕掛ける巧妙な罠(わな)かもしれない。