天鐘(3月12日)

大きな病院は総じて待ち時間が長い。診察、処方、会計で半日かかることも。おいしいと評判の店に並ぶのは、何とか我慢できる。楽しみが待っていると思えるからだ。期待外れのケースもままあるのだが▼この1カ月半で急に行列店が増えた。暦が春とはいえ、朝方.....
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 大きな病院は総じて待ち時間が長い。診察、処方、会計で半日かかることも。おいしいと評判の店に並ぶのは、何とか我慢できる。楽しみが待っていると思えるからだ。期待外れのケースもままあるのだが▼この1カ月半で急に行列店が増えた。暦が春とはいえ、朝方はまだ寒い。それでも開店前に多くの人が列をつくる。ただ、自ら進んで並んでいる割には表情がさえない▼薬局、量販店、スーパーの毎朝の光景である。目当てはマスク。一時はトイレットペーパーといった紙製品が加わった。店内を見渡すと、即席麺やカレーなど保存が利く食品の数も少ない▼新型肺炎への不安が引き起こした“パニック買い”。インターネット上での悪質な行為や伝聞にあおられ、さらに拡大した。マスクの高額転売、デマの流布、騒動に便乗した詐欺。ネット社会の邪心が目に付く▼それでも価値は見いだせる。訪日客の激減で廃業に追い込まれた温泉旅館が、書き込みへの共感で有終のにぎわい。中止された演奏会や展覧会の無料配信が、すさんだ心を癒やす。画面の向こうの授業や読み聞かせが、家にこもる子どもを支える▼絆、魂、希望。9年前の東日本大震災で、日本人は心を寄せ合い禍害に立ち向かった。出口が見えず、疑心暗鬼ばかりが募る新型肺炎。質は異なるものの、震災の節目に「国難」が重なった。至心が試されているような気がする。