天鐘(3月6日)

『ゴルゴ13』はどんなに困難な任務でも完遂する腕利きの狙撃手。常に冷静沈着。戦闘能力に優れ、流ちょうに多国語を操る。国家や巨大組織の暗闘が続く世界で、表と裏の境界に生きる▼連載50年を越える人気漫画。もちろん架空だが、国際情勢を踏まえた緻密.....
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 『ゴルゴ13』はどんなに困難な任務でも完遂する腕利きの狙撃手。常に冷静沈着。戦闘能力に優れ、流ちょうに多国語を操る。国家や巨大組織の暗闘が続く世界で、表と裏の境界に生きる▼連載50年を越える人気漫画。もちろん架空だが、国際情勢を踏まえた緻密な脚本に基づく。故に主人公の冷徹な目を介して、現代が抱える問題が透ける。そんな珠玉の名作の一つが『2万5千年の荒野』▼舞台は米国の原発である。稼働延期を求める現場の声を無視し、政治的な思惑から経営陣が運転開始を強行。すると外部電源が失われ、炉心溶融の危機に。作動しない安全弁をゴルゴが撃ち抜き、大惨事を回避する▼表題は発電に伴い生成される放射性元素・プルトニウム239の半減期に由来する。作品は1984年の発表。前後にスリーマイル(79年)とチェルノブイリ(86年)で、27年後に福島で、原発事故が起きた▼物語に登場する技術者は、使命感をもって事故に立ち向かった。同時に描かれるのは安全軽視、批判封殺、情報隠蔽という閉鎖的な“原子力ムラ”の醜さ。「不作為の人災」と称される福島の事故を予見していたのか▼安全性を高めても、事故は起こり得る。原発依存からの脱却を模索しても、現状では再生エネルギーで賄えない。「どうしたらいいんでしょうか」。作品は技術者の嘆きで結ばれる。今に通じる36年前の問い掛けである。