天鐘(2月24日)

「道化方」はかつて存在した歌舞伎の役どころ。一座の中核を担う芸達者で、滑稽な口上で会場を沸かせた。面白おかしい人を「三枚目」と言う。劇場に掲げる看板の3番目に道化方を記したことに由来する▼西洋で道化といえば「クラウン」。日本では、その一種「.....
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 「道化方」はかつて存在した歌舞伎の役どころ。一座の中核を担う芸達者で、滑稽な口上で会場を沸かせた。面白おかしい人を「三枚目」と言う。劇場に掲げる看板の3番目に道化方を記したことに由来する▼西洋で道化といえば「クラウン」。日本では、その一種「ピエロ」の名で広く浸透する。白塗りの顔、円すい形の帽子、だぶだぶの服が定番。サーカスや喜劇、パントマイムに登場する▼ピエロは愛らしく、おちゃめで、客に笑顔を届ける。人気者である一方、近頃は恐怖の象徴とされることが少なくない。一般的なイメージとは逆の悪役に据えた映画の影響か。「道化恐怖症」は意外と多い▼見た目だけではない。人間に近い存在なのに、奇抜なメークや衣装が個性を曖昧にしている。感情が読み取れず、行動が予測できないから身構える。心理学的にはリスクに対する予防的な反応らしい▼ピエロの顔には必ず涙が描かれる。嘲笑されることへの悲しみだという。昨年大ヒットした米国の映画『ジョーカー』。道化を生業(なりわい)とする青年が狂気へ墜(お)ちていく。社会の歪(ゆが)みに嗚咽(おえつ)をこらえてメークするシーンは印象的だった▼涙は弱者に冷たい世を物語る。主人公に心酔はしないが、現実に目を背けて責任を放棄しているのなら、それは絶望的な政治の“道化”である。分断が深刻な米国だけの問題ではない。格差が広がる一方の日本も同じだ。