天鐘(3月18日)

先日、種差海岸に可憐(かれん)に咲く「オオイヌノフグリ」を話題にしたが、名前の由来は冒頭からちょっと言いにくい。なぜこの名が―と調べたら、山野草は珍名の坩堝(るつぼ)。あるわあるわ▼薄青の細かな花を咲かせるオオイヌノフグリは、やがて粒状の実.....
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 先日、種差海岸に可憐(かれん)に咲く「オオイヌノフグリ」を話題にしたが、名前の由来は冒頭からちょっと言いにくい。なぜこの名が―と調べたら、山野草は珍名の坩堝(るつぼ)。あるわあるわ▼薄青の細かな花を咲かせるオオイヌノフグリは、やがて粒状の実を付ける。実が犬のふぐり(陰嚢=いんのう=)に似ていることから、この和名になった。早春の野に咲き誇るエレガントな草花なのに、この名前は可哀想▼在来種イヌノフグリを駆逐した近縁の帰化種で、「植物学の父」と呼ばれた牧野富太郎が、その在来種に由来して命名した。清楚な花との余りのギャップに「星の瞳」や「瑠璃唐草」への改名運動が巻き起こった▼〈犬ふぐり星のまたたく如くなり 高浜虚子〉。星も瑠璃もキラキラ過ぎたのか浸透しなかった。牧野博士が命名した2500余種で、私情が入ったのは亡き妻の名から付けた「スエコザサ」だけだったとか▼「雑草という草はありません」とは博士が昭和天皇に伝えた言葉だった。美醜の隔てなく、掃き溜(だ)めに咲く菊に「ハキダメギク」、悪臭を放つ花を咲かせる蔓(かずら)には「ヘクソカズラ」(屁糞蔓)と情け容赦なかった▼特性を見抜く判断力と屈託ない表現に驚かされた。小学中退の変人が学歴の壁を破り、理学博士で植物学の父と呼ばれるに至ったのは、何より植物が好きだったから。忖度なしの命名に高潔さが滲む。だが、博士もう少し…とも。