天鐘(4月24日)

北イタリアの古都クレモナ。西の空が茜(あかね)色に染まりかけた夕刻、新型コロナウイルスと戦う病院の屋上から、一人の女性バイオリニストが奏でる祈りと励ましの調べが街に響き渡った▼ストラディヴァリら弦楽器の名工が暮らした都市だ。今も奏者や研究者.....
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 北イタリアの古都クレモナ。西の空が茜(あかね)色に染まりかけた夕刻、新型コロナウイルスと戦う病院の屋上から、一人の女性バイオリニストが奏でる祈りと励ましの調べが街に響き渡った▼ストラディヴァリら弦楽器の名工が暮らした都市だ。今も奏者や研究者が数多く集う“弦楽器の聖地”である。だが今、町はコロナとの戦いの最前線にあり、医療従事者は休みなしの神経戦に疲れ切っている▼病院が地元の団体に企画を話すと、日本人奏者横山令奈さん(33)に白羽の矢が。高さ30メートルの屋上でビバルディの『四季』などを弾き始めると、窓から防護服姿の医師や看護師が顔を出し、静かに聴き入っていた▼そのニュース映像がワイドショーに流れた。深紅の衣装に身を包んだ彼女が無心に奏でる姿はまるで映画の一シーンのよう。演奏後「生の音楽が人の心に響き、少しでも勇気を持ってもらえたら…」と語った▼関係者は暫(しば)し見えない敵との死闘を離れ、感動の拍手を送っていた。芸術に囲まれた日常の有り難さを心から痛感させられた時間だった。国こそ違うが、感謝と激励の拍手を送るべきは本来こちら側のはずである▼だが、わが国ではそのスタッフに排他的誹謗(ひぼう)が頻出。青森市役所などは金曜日の「フライデー・オベーション」で感謝を伝え、いわれなき中傷も諫(いさ)めている。分断を武器とするコロナの術中にまんまと塡(は)まってはいけない。