天鐘(4月2日)

天井裏の書棚から子供用に揃(そろ)えた『アンデルセン童話』を引っ張り出した。パラパラ捲(めく)ると見覚えのある挿絵がたくさん載っている。その一枚に目を止めると途端にタイムスリップ。「そうそう」と物語が滲(にじ)み出してくる▼デンマークの貧し.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 天井裏の書棚から子供用に揃(そろ)えた『アンデルセン童話』を引っ張り出した。パラパラ捲(めく)ると見覚えのある挿絵がたくさん載っている。その一枚に目を止めると途端にタイムスリップ。「そうそう」と物語が滲(にじ)み出してくる▼デンマークの貧しい靴屋に生まれたハンス・C・アンデルセン。貧困と挫折の少年期、そして波乱に満ちた青年期の暗くて重い影を払い除けるように、彼は70歳で世を去るまで160編もの童話を書き続けた▼寒空でマッチを売る少女。寒さに耐えかねマッチを擦すると大好きな祖母が現れ、炎とともに消えた。祖母恋しさに「一緒に連れてって」と今度は持っていたマッチ全部を燃やすと、祖母は優しく抱き締めてくれた▼代表作『マッチ売りの少女』だ。翌朝、少女は笑みを浮かべて冷たくなっていた…。読み聞かせる親も涙声になる。王子を愛した『人魚姫』の悲恋は、著者自身が執筆中、幾度も涙を流しながら仕上げたとか▼読書が人生に少なからぬ影響を与えることは確か。予定調和の人生訓を描いた寓話(ぐうわ)は山ほどある。だが「体験の全てを童話に投げ込んだ作家」は彼を置いていないだろう▼「彼はカオスのど真ん中で影と対決した」とはアンデルセン文学賞を受賞した村上春樹さんの評。今日はアンデルセンの生誕日(1805年)で「国際こどもの本の日」。自身は生涯を「一篇の美しい童話だった」と回想した。