天鐘(4月6日)

学生時代を過ごした街に桜の美しい公園があった。毎年、花の季節には近所はもちろん、遠くからも大勢の人たちが集まってきて、夜桜の下にいくつもの車座ができた▼ご多分に漏れず悪友らと夜な夜な繰り出した口である。皆二十歳ほどの若造だ。もっぱら「花より.....
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 学生時代を過ごした街に桜の美しい公園があった。毎年、花の季節には近所はもちろん、遠くからも大勢の人たちが集まってきて、夜桜の下にいくつもの車座ができた▼ご多分に漏れず悪友らと夜な夜な繰り出した口である。皆二十歳ほどの若造だ。もっぱら「花より団子」で、桜の風情などそっちのけ。大いに騒いでひんしゅくをかったことを今になって後悔している▼花を「愛めでる」の表現に惹ひかれたのは社会人になってからだ。年を重ねるほどに花見の主役は団子ではないと実感する。満開の艶姿あですがたに、巡る命や散り際の美学を思う。還暦間近となれば「この光景をあと何度…」の感慨も湧く▼〈世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし〉は在原業平。いっそ桜などなければ心穏やかな春なのに…の逆説は今も日本人の心情の代弁だろう。柔らかな薄紅色はいつも人の心をそっと包んで優しい▼やっかいな感染症のせいで今年は各地の春まつりが中止になっている。日本一の弘前公園も立ち入り禁止だそうだ。重苦しい空気が北国の春を覆う。悲しくも今回ばかりはいつもと違った桜の風景となろう▼車座の花見が駄目なら近所の街路樹をベランダから、車の中から…などと今から考えてみる。自粛疲れが言われるが気持ちは外に向けていたい。八戸地方にもまもなく開花の便りが届く。こんなときでも桜はちゃんと咲いてくれる。