天鐘(6月28日)

八戸市から大館市に至る国道104号。車窓から眺めるだけでも南部の風土が感じられる。目で、そして鼻でも。この時期になると、あの食欲をそそる匂いが漂ってくる。田子町で特産のニンニクが旬を迎えた▼岩手、秋田に接する。火山灰質で土地がやせ、冷たい風.....
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 八戸市から大館市に至る国道104号。車窓から眺めるだけでも南部の風土が感じられる。目で、そして鼻でも。この時期になると、あの食欲をそそる匂いが漂ってくる。田子町で特産のニンニクが旬を迎えた▼岩手、秋田に接する。火山灰質で土地がやせ、冷たい風が吹きつけ、雑穀しか生えないとされた。冬場は出稼ぎを強いられる寒村。約60年前、若手農業者の有志が身銭を持ち寄り、ニンニクの種を買い付ける▼堆肥をまいて土を起こし、出荷に厳しい基準を設けた。10余年を経て晴れて日本一の称号を得る。中国産の台頭など逆風は数知れず。差別化を図るため品質にこだわり続けたからこそ、今も市場の評価が揺るがない▼規格外を用いた加工品に知恵と工夫が生きる。茎や葉を編み込んだ飾りに感覚が生きる。新品種の「美六姫(みろくひめ)」に科学の粋と農家の気概が生きる。担い手を育て、守り続けたい誇り高きブランドである▼20年近く前の衝撃が忘れられない。掘りたてのニンニクの薄切り、釣り上げたばかりのイワナの刺し身。促されて一緒に口へ放り込んだ。まさに滋味。まだ携帯電話が通じなかった山懐に、豊かな暮らしがあった▼ニンニクは料理の主役にも脇役にも。力が湧くから毎日でも食べたい。それでも匂いは気になる。今年はアレを味方につけるしかない。マスク。胃袋を満たすためである。少し癪(しゃく)に障るが頼ってみるか。