天鐘(4月1日)

中村正直は幕末・明治の啓蒙思想家。福沢諭吉と並び称された「聖人」が、中村敬宇の号で発表したのが『小説ヲ蔵スル四害』。小説を好む人間は立派でない、盗み読むと破滅する…。あまりにも極端で驚く▼小説は中国語で「取るに足らない」の意。儒教道徳を説く.....
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 中村正直は幕末・明治の啓蒙思想家。福沢諭吉と並び称された「聖人」が、中村敬宇の号で発表したのが『小説ヲ蔵スル四害』。小説を好む人間は立派でない、盗み読むと破滅する…。あまりにも極端で驚く▼小説は中国語で「取るに足らない」の意。儒教道徳を説く四書五経に対し、品格で劣るとされた。風聞、色事、与太話で人心を惑わし、風紀を乱すとして、排斥が真剣に議論されたという▼理論の確立に挑んだのは『小説神髄』の坪内逍遙。新渡戸稲造は想像や感情を養成する読書の長所を挙げ、選書を勧めた。森鴎外や夏目漱石らの文豪が活躍。かくして近代文学は実を結び、市民権を得た▼喜劇の一時代を築いた志村けんさんが逝った。誰が見ても理解できる、分かりやすい笑い。コントで演じる役柄は奇想天外なのに、なぜか身近な存在にも思える。普遍的な滑稽さを生んだのは、人間への優しい目線▼際どいネタも多々あった。たびたび「低俗」と冷評された。それでも言葉、動き、リズムを巧みに編み込んだ「ばかばかしさ」は、子どもの心をわしづかみに。批判を浴びせた大人も巻き込んだ▼新型コロナウイルスの感染が伝えられてから、わずか6日。感染爆発の岐路にあっても、どこか現実感が薄い世の中に衝撃を与えた悲報である。志村さんが追い求めた笑いを取り戻すためにも、無念の死を悼み、なすべきことを考えたい。