天鐘(4月15日)

太平洋戦争の末期、母を疎開させようと混雑する上野駅に行くと、列車は遅れに遅れ、いつ発車するか分からない。にもかかわらず人々は整然と列をつくって待っていた―▼作家、高見順の『敗戦日記』。混乱で憔悴(しょうすい)し切っているのに秩序を守り、粛々.....
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 太平洋戦争の末期、母を疎開させようと混雑する上野駅に行くと、列車は遅れに遅れ、いつ発車するか分からない。にもかかわらず人々は整然と列をつくって待っていた―▼作家、高見順の『敗戦日記』。混乱で憔悴(しょうすい)し切っているのに秩序を守り、粛々と順番を待つ人々。彼は「こういう国民と共に死にたい」と書いた。その日記を読んだ文学者ドナルド・キーンさんもそう叫んだ▼東日本大震災で略奪や破壊のない国に世界が驚き、「助けるに値する民族」と援助の手を差し伸べた。キーンさんはそんな自慢話(『私が日本人になった理由』)を残して昨年、日本人として96年の生涯を終えた▼そして今、コロナ禍。その国民性が改めて問われている。北大の西浦博教授が「人の接触を8割削減できれば1カ月で収束」と試算。この想定に基づいて安倍首相は「最低7割、極力8割を目標に」と求めた▼試算は風俗業界の感染など隠れた数値も積み上げた結果で西浦氏には「譲れない8割」。財政との両睨(にら)みによる躊躇(ためら)いも分かるが、折角の数値も首相に“翻訳”されると、誇るべき国民性になかなか火が付かない▼皆コロナは怖く愛犬と一緒にソファにいたい。だが、外に出ざるを得ない人もいる。震災は「寄り添う絆」で今は「離れる絆」とか。絆がなければ家族や地域がバラバラに。きちんと腹を固めればあの絆はまた固く結束するはずだ―。