天鐘(5月18日)

つい先日、筆がのらないので気分転換に車を走らせた。旬を探しに産直へ。初夏のような陽気。窓を全開にして農道を進む。リンゴの花の盛りは過ぎていたが、通り沿いのツツジや菜の花が鮮やか。新緑もまぶしい▼道すがら何台ものトラクターとすれ違う。この春は.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 つい先日、筆がのらないので気分転換に車を走らせた。旬を探しに産直へ。初夏のような陽気。窓を全開にして農道を進む。リンゴの花の盛りは過ぎていたが、通り沿いのツツジや菜の花が鮮やか。新緑もまぶしい▼道すがら何台ものトラクターとすれ違う。この春は室内に閉じこもりがちだった。気付けば農作業が本格化している。更田(さらた)が水を得て生気を取り戻し、整然と並ぶ苗が小さく揺れていた▼稲作は日本人の生活に深く根付く。柳田国男に端を発する農村文化の研究で、頻繁に登場するのが「サ神」。八百万(やおよろず)の神に数えられ、当て字がなくカタカナ。豊穣(ほうじょう)をもたらす作神は、春に山から田に下りて、秋に山へ帰るという▼里での御座(みくら)は「桜」。花が咲けば「酒」で祝い、作付けの準備を進める。御霊(みたま)が宿る「早苗」を巫女(みこ)の「早乙女」が植える。作業が終わると「さなぶり」で豊作を祈願する。全ての言葉にサを冠し、自然への畏れを受け継いだ▼サ神信仰を否定する向きもあるが、今年ばかりは願いを託したくなる。感染症におびえる日々はいつまで続くのか。長期戦が避けられないとしても、今よりは穏やかな気持ちで出来秋を迎えたい▼気晴らしのドライブが〈瓢箪(ヒョウタン)から駒〉になった。産直の駐車場で串もちをかじりながら、パソコンをたたく。在宅勤務ならぬ外出勤務も悪くない。土産のワラビは晩酌で。少し苦くて、瑞々(みずみず)しかった。