コラム
週間記事ランキング
 表面上は「完成」への大きな一歩かもしれない。ただ内実を掘り下げると、核燃料サイクル政策の矛盾が次々と浮かび上がる。使用済み核燃料再処理工場(六ケ所村)が新規制基準に適合していると認める「審査書案」を、原子力規制委員会が6年4カ月に及ぶ議論を経て了承した。[br] 事実上の審査合格までは曲折の連続だった。その大きな要因は、作業工程が十数の建屋にまたがる複雑さ。原発の事故リスクが原子炉と核燃料貯蔵プールに限られる一方で、工場は切り刻んだ核燃料を溶かしてプルトニウムなどを分離、廃液から高レベル放射性廃棄物も製造する。このため放射性物質が分散し、防護すべき設備は多岐にわたる。[br] 国内初の商業用施設であり、海外でも稼働実績は多くない。規制委も基準を作ったとは言え、前例のない中で事故対策をどこまで求めるかなど試行錯誤を重ねたことは、113回の審査会合と605回の事前ヒアリングという数字が物語る。「1年ぐらい前にようやく軌道に乗った」と更田豊志委員長が振り返るほどだ。[br] 同じことは事業者の日本原燃にも言えるが、事情が違うのは自らのずさんな安全管理体制で事態をこじらせた点である。十数年もの設備点検漏れが駄目押しする形で半年間の審査中断を招き、終盤でも申請書類の記載ミスといった問題が続出した。6年余りの過程で浮き彫りになった体質の甘さは決して見過ごせない。[br] 原燃は結果として審査期間中だけで工場の完成時期を3回延期したが、2021年度上期とする現在の目標にも厳しさが増す。中核を担うサイクルを巡っては、この間に決まった原型炉もんじゅの廃炉によって高速増殖炉サイクルの頓挫が決定的となり、通常の原発でプルトニウムを再利用するプルサーマルに頼らざるを得なくなった。[br] ただ、東京電力福島第1原発事故後に再稼働した対象原発は4基のみ。廃炉が加速する中で電力業界が目指す16~18基での導入は不透明で、だぶつくプルトニウムは国際的な懸念を強めるだけだ。もっとも、既に青森県内で一時貯蔵している高レベル廃棄物の最終処分地選定は喫緊の課題である。[br] 着工から40年間にわたる操業、廃止措置まで含めた総事業費は約13兆9500億円にも達する。その原資は電気料金だ。節目を迎えたからこそ、いま一度考えたい。再処理工場の存在意義とは何なのか、と。