全国で唯一、新型コロナウイルスの感染者が確認されていない岩手県。しかし、感染者の発生を想定すると、医療体制は決して十分とは言えない。[br] 喫緊の課題となっているのが、感染の有無を調べるPCR検査の体制だ。県が実施した検査数は5月1日現在、362件で全国最少。隣県で人口も大差のない青森県の700件と比べても、倍近くの差がある。[br] 達増拓也知事は「肺炎が悪化したり、亡くなったりするケースは認められていない」とし、必要な検査は実施しているとの姿勢を強調する。だが、検査数の少なさに対する県民の不安は根強く、相談窓口には疑問の声が相次いでいるという。[br] 改善に向け、県は検査体制の見直しに着手した。検査を実施する県環境保健研究センター(盛岡市)の検査能力を1日最大40件から倍の80件に増やすことを決定。また、濃厚接触者の検査やクラスター(集団感染)発生時は、県が設置する専門委員会の協議を省略できるよう、検査手続きの一部を簡略化した。[br] 加えて、感染の疑いがある人の医療窓口となる「地域外来・検査センター」(発熱外来)を県内九つの二次医療圏に新設。既存の窓口である「帰国者・接触者外来」と同様の機能を持たせる一方、予約で利用できるようにハードルを下げ、検査体制をさらに拡充する。設置場所は屋外のテントや公民館の活用などを想定している。[br] 検査体制の整備に加え、医療機関の感染者対応病床の確保も急務となっている。[br] 厚労省が出した試算では、県が何も対策を取らなかった場合、流行ピーク時の県内の入院患者は2500人、重症者は80人程度に上るという。県も各種対策は打ち出しているが、医療資源に乏しい岩手で試算のような状態になれば、たちまち医療崩壊につながる危険性がある。[br] 県内9カ所の指定医療機関には感染症病床が38床しかなく、ピーク時の重症者数の試算には足りない。そこで県は、ウイルスを外に漏らさない簡易陰圧装置を整備した55床を追加で確保した。[br] 今後はさらに簡易陰圧装置の設置を進めて73床を加え、計166床に増やす方針。それでも不足した場合は、結核病床91床も活用する。併せて、軽症者が療養する宿泊施設を300室ほど確保する準備も進めている。[br] 全国唯一の岩手の対応は、他からも注目されている。だからこそ、感染者「ゼロ」の状態を維持しながら、可能な限りの備えをしておく必要がある。