この機会に大転換ができないか。民事裁判の基本とされてきた書面手続きから、オンラインによるIT化への切り替え。それは司法へのアクセスを容易にし、身近で利用しやすい司法へと変える利点がある。適正・迅速な裁判ができ、海外取引などに関する裁判も簡易になる。[br] 新型コロナウイルスの影響で政府は外出自粛やテレワークを求めている。民事裁判も原則延期になったが、裁判所へ行かずにすむIT化が早期に実現されれば、苦境打開の道も開ける。[br] もちろん個人情報の保護やIT技術の悪用防止など安全確保策の同時実施が必要だ。その上で、現行制度でも実行可能な公判準備手続きなどをすぐにも始め、全面実施へと進めたい。[br] 民事裁判のIT化は1996年の民事訴訟法改正で争点整理に電話会議、証人尋問にテレビ会議が導入され、始まった。その後、欧米などでは広範に実施されたが、日本は遅れが目立つ。[br] 森雅子法相は今年2月、IT化による制度見直しを法制審議会に諮問。訴状などのオンライン提出(e提出)、ウェブ会議やテレビ会議などの活用(e法廷)、裁判記録の保管・閲覧など(e事件管理)という「三つのe」の実現を示し、2022年の民訴法改正を目指すとした。[br] しかし、この後、緊急事態宣言の影響で法制審は開かれず、論議は進んでいない。法相の諮問自体が遅かったが、これでは法制審の答申はさらに遅延しかねない。政府、国会、最高裁は深刻さを強く認識するべきだ。[br] 政府は18年の検討会取りまとめで「三つのe」を3段階に分け、順次実行することを提案した。第一段階は、現行法で可能なe法廷。これに従い、まずはウェブ会議などを可能にする予算措置、人材の配置といった環境整備を急ぎたい。[br] 実施の際、利用者目線での見直しが大切になる。ITに習熟していない高齢者や、パソコンなどの必要機器・ソフトを用意できない社会的弱者への目配りが必要だ。[br] IT技術の教育・研修、利用可能な施設の用意、相談できる専門家の配置などの支援策が重要だ。弁護士ら法曹関係者に加え、行政機関や市民団体の協力も欠かせない。[br] IT化は地域によって必要度などに濃淡もある。準備が整った裁判所から先行的に導入し、全国へと広げるのが現実的だ。コロナの影響が長引けば、裁判を受ける権利が損なわれかねない。司法にも行政、国会にも市民の期待に速やかに応える責任がある。