第2次世界大戦後、欧州統合へ一歩を踏み出したフランスのシューマン外相の宣言(1950年5月9日)から70年を迎えた。宣言は大戦で廃虚と化した欧州を再建するため、欧州連合(EU)の前身、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の創設を呼び掛けた。目的はフランスとドイツの敵対の歴史に終止符を打つ「非戦共同体」を設立し、復興と発展のために経済統合による共同市場を創出することだった。[br] 52年にフランス、ドイツ、イタリアとベネルクス3カ国の計6カ国で設立したECSCは、93年にマーストリヒト条約(EU条約)発効でEUとなった。冷戦終結後の東欧諸国の加盟で現在は27カ国に拡大した。[br] だが、欧州統合の拡大と深化の道は平坦(へいたん)ではなく、近年も欧州財政危機や英国のEU離脱に揺さぶられるなど、その歴史は挫折と再生の繰り返しだった。今回の新型コロナウイルス危機は「EU発足以来、最大の試練」(メルケル・ドイツ首相)と言われる。EUの将来を左右する連帯の真価が問われている。[br] EUが直面する喫緊の課題は二つある。南北の経済格差打破への取り組みと、民主主義を巡る東西間の対立の解決だ。EUは4月下旬、オンラインの首脳会議で、危機的な経済の復興に向け、1兆ユーロ(約116兆円)を超える規模の基金創設で合意した。財源は現在協議中の21~27年のEU中期予算から支出する。被害が深刻なイタリアなどへの基金創設合意で一定の連帯を示したことを歓迎したい。[br] しかし各国への配分が補助金なのか融資なのかを巡り、南北の経済格差が鮮明な加盟国の間で対立が続く。南部のイタリアやスペインなどは返済不要の補助金を要望しているが、財政規律に厳しい北部のドイツやオーストリアなどは融資が基本だと主張する。ミシェルEU大統領は「復興基金創設は急を要する」と訴えた。早急に基金の配分が実施できるようEU各国に努力を求めたい。[br] もう一つの難題は民主主義などEUの基本的価値観を否定する東欧加盟国との対立だ。ハンガリー議会は3月末、新型コロナウイルス対策として発令した非常事態宣言の無期限維持を可能にする法案を可決した。報道の自由を脅かす恐れのある条項も含まれ、オルバン政権の膨大な権限強化を意味する。[br] EUの行政府、欧州委員会は「非常措置は(自由や民主主義など)基本原則を損ねてはならない」と警告した。ここでもEUの真価が問われている。