天鐘(1月5日)

元日に届いた年賀状を眺め、今更ながら直筆の少なさに気づかされた。数えてみると全体の7割以上がほぼ印刷である。少々寂しくはあるが、これも時代の流れなのだろう▼何年か前に新年の書き初め大会を取材した。老若男女が一文字一文字を慎重にしたためている.....
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 元日に届いた年賀状を眺め、今更ながら直筆の少なさに気づかされた。数えてみると全体の7割以上がほぼ印刷である。少々寂しくはあるが、これも時代の流れなのだろう▼何年か前に新年の書き初め大会を取材した。老若男女が一文字一文字を慎重にしたためている。小学校の習字で、先生が言っていたのを思い出した。「漢字の意味を考えながら書かないと、きれいな字になりません」▼文字を書くことを「筆を走らす」と言う。思えばそれも既に死語なのかもしれない。筆記の道具はパソコンに代わり、走らす筆は「叩(たた)くキー」になった。「水茎の跡」の意味を知らない若者も多いらしい▼読み方を入力すれば、たちまち漢字に変換できる利器は小欄もありがたい。ただ、それと引き替えに文字の意味を深く考えることをしなくなった気もする。白状すれば、難しい熟語の綴(つづ)りなどは電脳任せがたびたびだ▼「漢字は組み合わせ」とは、言語学者の金田一秀穂さん。「だから『平素』の意味が分からずとも、『平』と『素』、一文字ずつ考えれば理解できる」。じっくり文字を見つめれば何か新しい発見もある▼巣ごもりのこの正月、心静かに硯(すずり)と半紙に向かった方もおられよう。何かと慌ただしい昨今だからこそ、穏やかな手書きの文字の美しさと、その重みを感じたい。パソコンに慣れ切ってしまった反省も込め、年賀状の返信に筆を握る。